★★★
1944年。ドイツ占領下のフランス。外科医のジュリアン(フィリップ・ノワレ)は妻のクララ(ロミー・シュナイダー)、娘のフロランス(カトリーヌ・デラポルテ)らと仲睦まじく暮らしていた。ところが、占領軍は戦況の悪化とともに活動が活発化している。家族の身を案じたジュリアンは皆を城に避難させるも、占領軍によって全員殺されてしまうのだった。ジュリアンは散弾銃を持ち出して復讐する。
メタボ気味の中年男がランボーもびっくりの立ち回りをしていて、フランス映画は随分変わってるなあと思った。これがハリウッドだったら運動神経の良さそうなイケメン俳優を起用していただろう。フィリップ・ノワレはお世辞にもアクションをやるような風体をしていない。そこら辺によくいる普通のおっさんである。本作は敢えて定型を外したところが面白いのかもしれない。
ジュリアンが有利なのは地理を知り尽くしていることとゲリラ戦術を駆使できることくらいで、彼我の戦力には絶望的な差がある。曲りなりにも相手は軍隊だ。人数は多いし、持っている武器も強力である。ジュリアンはたった一人で武器は散弾銃のみ。一方、敵は一ダース以上の数がおり、武器も機関銃や火炎放射器、手榴弾と豊富である。どう見ても勝ち目はないのだけど、罠を張って少しずつ敵を減らし、その不利を覆していくところは見ものだった。
最大の危機は敵兵に背後をとられて銃を突きつけられた場面だけど、そこをスティーヴン・セガール並の体術で切り抜けたのには驚いた。抜群の度胸と抜群の判断力である。ただの外科医とはとても思えないアクションだった。
復讐の最中にちょくちょく回想が入ってくるところも印象的だった。家族と平和に暮らしていた様子、幸せだった頃の様子が挿入され、ジュリアンの現在の孤独を浮き彫りにしている。それはそれで劇的な効果があるのだけど、一方でこういう構成にしないとロミー・シュナイダーの出番がないので、大人の事情も関係していたのかもしれない。また、画面の作り方がどこかテレビ的で、映画を観ているような感じがしなかったことも特筆しておきたい。たとえるなら、アナログテレビで午後のロードショーを観ているような感覚である。とてもスクリーンで上映されていたとは思えなかった。
本作で一番良かったのは序盤、城に避難していた人たちが皆殺しにされていたシーンだ。血塗れの死体があちこちに倒れている光景はショッキングだった。これには死体を見慣れている外科医もびびるだろう。非日常の倒錯した美しさが垣間見れた。