★★★★
1851年。カリフォルニアの牧場主ロイ・ウィットマン(ジョン・マッキンタイア)が、カウボーイたちに花嫁をあてがうべく、シカゴで花嫁候補を募ることになった。ロイに依頼されてバック・ワイヤット(ロバート・テイラー)もついていく。2人は無事140人の花嫁候補を確保。花嫁部隊はシカゴからカリフォルニアまで3200kmの過酷な旅をする。一行には踊り子のフィフィ・ダノン(デニーズ・ダセル)がいて、彼女はバックに惚れていた。
都会で花嫁を募ったり女群を牛に見立てたり、前提だけ見ると差別的だが、中身は男女平等の信念を貫いた女性映画だった。こういう映画が作られたのも第二次世界大戦を経て女性の地位が向上したからだろう。戦時中、女性は出征した男性の代わりに労働の担い手となった。それまで家庭に押し込められていた女性は、社会進出を機に受け身であることやめ、自信と積極性を獲得した。本作にはそういった当時の世相が反映されている。過酷な西部を旅するには「女らしさ」を捨て、男並みにタフにならなければならない。彼女たちは射撃を覚え、肉体を酷使し、少なくない人数が死んでいく。牛の群れのような受動的な存在から、カウボーイのような積極的な存在へと生まれ変わっていた。女群は花嫁候補として旅しているが、婿を選ぶのは彼女たちのほうである。各々目当ての男の写真を手に取り、目的地へと進んでいくのだ。本作は西部劇の器を借りて女性の地位向上を描いているところが面白い。
幌馬車隊を組んでの旅路はとても見栄えがするし、危険なアクションも堂に入っている。中でも急斜面を降りるシークエンスがすごかった。ここでは馬車のスピードを抑えるため、女性たちが綱引きの要領で後ろから馬車を引っ張っている。少しずつ馬車を前に進めようとしているのだ。1回目は失敗して馬車が転げ落ちてしまった。御者を務めていた女性も死んでいる。しかし、馬車は何台もあるからめげずに続けなければならない。このハードな肉体労働を女性陣にやらせているところが新鮮だった。
フィフィがウサギを狩るべく銃を撃つ。その銃声に驚いた馬の一群がパニックになって駆け出していく。それを男たちが必死に取り押さえる。このアクションもなかなかすごい。どうやって撮ったのだろうと思う。また、終盤では産気づいた妊婦を馬車に乗せて進んでいく。ところが、馬車の左後輪が外れてしまった。男が慌てて馬を止め、女たちは傾いた馬車を持ち上げて平衡を保つ。その甲斐もあって無事出産できた。このシークエンスもなかなかハードで見応えがある。
登場人物でもっとも印象的だったのが日系人のイトー(ヘンリー中村)だ。彼は周囲のタフガイに比べると極端に背が小さい。ちょくちょく日本語で独り言をしてはバックに何を言っているのか聞き返されている。一見するとコメディリリーフのようだが、一方でバックを諌める重要な側近として機能しているのだった。この時代に日系人はいないだろう、というツッコミはさておき、彼の存在が一服の清涼剤になっているのは確かだ。我々日本人は彼の日本語を完璧に聞き取れるわけで、アメリカ人よりも映画を見る解像度が上がっている。これは思いもよらない収穫だった。