海外文学読書録

書評と感想

ジョージ・シドニー『三銃士』(1948/米)

★★

ダルタニアン(ジーン・ケリー)が田舎町ガスコーニュからパリに上り、ポルトス(ギグ・ヤング)、アラミス(ロバート・クート)、アトス(ヴァン・ヘフリン)の三銃士と親交を結ぶ。折しもフランスでは宰相のリシュリューヴィンセント・プライス)が権勢を振るっていた。彼は王妃アン(アンジェラ・ランズベリー)と英国宰相バッキンガム公(ジョン・サットン)の不倫をネタに策を巡らしており、美貌のウィンター伯爵夫人(ラナ・ターナー)を協力者として利用している。そんななか、ダルタニアンはアンの侍女コンスタンス(ジューン・アリスン)と恋仲になるのだった。

原作はアレクサンドル・デュマの同名小説【Amazon】。

全体的にしょぼい映画だけど、ジーン・ケリーの軽快な身のこなしは必見だろう。一流のダンサーは運動神経も一流なのだということがよく分かる。本作はさりげないところにとんでもないアクションを入れていて、チャンバラの最中に池を飛び越えるとか、馬での追いかけっこの最中に崖を飛び越えるとか、下手したら怪我しそうなことをさらっとやっている。また、建物から別の建物へ飛び移る危険な(しかし、それでいて地味な)アクションも行っていた。いくつかのシーンはひょっとしたらスタントマンが演じてるのかもしれない。しかし、それにしたって日常の身のこなしからして並ではなく、この男は本物のアクションスターなのだろうと思わせる。

ドラマ部分で注目すべきはウィンター伯爵夫人で、持ち前の美貌を駆使して女スパイみたいなことをやっている。これがなかなか面白かった。ダルタニアンもバッキンガム公も彼女にはまってしまうのだから、男というのはしょうもない。特にダルタニアンなんて、恋人がいるにもかかわらず、夫人と一夜を共にしてからは態度が一変してメロメロになっているだから笑える。ダルタニアンは夫人に魅了されてしまうのだった。夫人はそんなに床上手だったのだろうか。腕利きの剣士といえども、下半身の欲求に勝てないところが何とも情けない。

ウィンター伯爵夫人は女ゆえに腕力で男に敵わない。その事実を思い知らされる場面が劇中に二箇所ある。しかし、夫人は非力であるがゆえに、奸智に長けているのだ。腕力で劣る彼女は、美貌を武器にして海千山千の男たちと張り合っている。この適応ぶりを見ると、進化心理学はやはりある程度までは妥当なのだと思う。