海外文学読書録

書評と感想

板垣恵介『範馬刃牙』(2006-2012)

★★★

父親・範馬勇次郎との決戦を控えた刃牙は、自宅の地下室でカマキリとリアルシャドーをする。やがて刃牙は渡米して刑務所に入り、ビスケット・オリバと対決することに。その後、白亜紀から原人のピクルが復活し、格闘家たちが次々と挑戦する。

全38巻。

『バキ』【Amazon】の続編。この漫画、中国大擂台賽編に入ったあたりでコミックの収集を中止し、以後はたまにコンビニで連載を立ち読みする程度だった。ところが、最近知人との会話で話題になって気になったため、電子書籍を購入して一気読みした。

改めて読むと、本作はエディプス・コンプレックスの話だったことが分かる。刃牙は幼少期に母親に預けられ、格闘技の英才教育を受けた。それは強くなって地上最強の生物である父親と対戦し、彼を楽しませることが目的だった。父親は最強すぎて退屈していたのだ。ところが、色々な問題があって母親は父親に殺されてしまう。と同時に、刃牙も完膚なきまでに叩き伏せられてしまう。以降、刃牙が強くなる動機は父親に勝って母親の仇討ちをすることになった。本作は息子がいかにして父親を乗り越えるかという話になっていて、だからこそ導線として魅力があるのだろう。地上最強に挑む戦いを「親子喧嘩」と称するあたり人を食っているけれど、しかし、それがこの漫画の本質であることには間違いない。全体としては、父と子という身近なトピックを壮大なスケールで描いている。

大ゴマを惜しみなく費やす格闘シーンは迫力があって見応えがある。全盛期に比べると物語の牽引力は弱っているものの、相変わらず「誰が強いのか?」みたいなキャラクター消費的な興味は喚起させる。とはいえ、今回はキャラの使い捨て感が強いかもしれない。ピクル戦で烈海王と愚地克巳が身体欠損したのはやりすぎだと思った。ただそれでも、見せ場の作り方には不満がないから困ったものだ。特に愚地克巳はこれまで小物として描かれていたため、あの負け方には惚れてしまった。彼は有終の美を飾ったと思う。前作のMVPがアライJr.だとすれば、本作のMVPは愚地克巳だろう。この辺、ピクルという魅力のないキャラを上手く活用していた。

本作において刃牙は、ビスケット・オリバ、ピクル、範馬勇次郎の3人と対戦する。いずれも最後は単純な殴り合いで決着をつけていて、これが作者の考える「男らしさ」なのだろうかと首をひねった。読者としては、全部同じ流れなのには納得していない。また、範馬勇次郎との戦いは文字通りちゃぶ台返しで終わっている。エア味噌汁のくだりは「なんじゃこりゃあ」と拍子抜けした。終わってみれば、刃牙は要求を通すことで「最強」の称号をもらったものの、格闘での勝負には負けているので、お世辞にも父を超えたとは言えない。シリーズを続けるための延命策を見せられたようで不満だった。