海外文学読書録

書評と感想

クエンティン・タランティーノ『キル・ビル Vol.2』(2004/米)

★★★

復讐に燃えるザ・ブライド(ユマ・サーマン)は、次の標的を酒場の用心棒バド(マイケル・マドセン)に定める。ところが、彼女はバドに返り討ちにされるのだった。バドはザ・ブライドが持っていた日本刀を売るため、毒殺の名人エル・ドライヴァー(ダリル・ハンナ)に連絡する。ザ・ブライドの最終目標は組織のボスであるビル(デビッド・キャラダイン)だったが……。

『キル・ビル Vol.1』の続編。

ストーリーは前作から続いているが、前作とはテイストの異なる映画になっていた。というのも、相対的にアクションが控えめなのである。個人的には本作のほうが静かな叙情があって好きかもしれない。やられたらやり返すのが復讐であるが、ザ・ブライドとビルの関係はそれだけに留まらず、2人の間には愛があった。ところが、そこから裏切りがあって憎悪に転じたのである。愛があるからこその憎悪。終盤は対話によって2人の間合いを深めていて見応えがあった。

前作も本作もとにかく冗長だが、前後編に分けるためにかさ増しする必要があったのだろう。確かに前作と本作は混ぜないほうがいい。テイストの違う別の映画として独立させたから良かった。前作のハイライトは過剰なオリエンタリズムと過剰な残酷描写である。時系列を乱してまでオーレン・イシイ(ルーシー・リュー)をラスボスに据えた構成は正解だった。それに対して本作は男女の愛憎劇だ。オリエンタリズムの要素は若干残っているものの、作風をぐっと変えている。見ている間はよくあるディレクターズカット版みたいだと思ったが、見終わった後はそこそこ満足感があった。商業的に成功した監督が好きなことをするとこうなるようである。すなわち、しつこいくらいにオマージュを連発する。おたくの底力を見せつけられたような気がした。

中国拳法を神話の領域にまで高めたのはカンフー映画である。実際の中国拳法は近代格闘技に比べると圧倒的に弱いのだが、フィクションの世界では歴史の長さに裏打ちされた必殺拳として持ち上げられている。カンフー映画をリスペクトした本作もその例に漏れない。本作にはパイ・メイ(ゴードン・ラウ)というカンフーの達人が出てくるが、彼は白髪に白髭を生やした老人だ。ワンパンで伸されそうな見た目なのに現役の殺し屋よりも格闘技の実力は上なのである。彼は傲慢な性格をした師匠として絶大な存在感を発揮していた。これも一種のオリエンタリズムだが、僕もフィクションを通じて中国拳法への幻想を抱いていた。特に『グラップラー刃牙』【Amazon】に出てきた烈海王の影響は大きい。かつて中国拳法に夢を見ていた者として本作には親近感をおぼえる。

前作で驚異的な強さを見せつけたザ・ブライドだったが、本作はどうにも冴えない。バドには返り討ちにされるし、ビルにも先手を打たれて窮地に陥っている。格闘戦に持ち込めば勝利は確実なのだが、そこに至るまでに難儀していた。世界一の殺し屋が2度も生殺与奪の権を握られている。殺されなかったのが不思議なくらいだ。こういった弱さを前面に出したところが前作との大きな違いで、そこは映画全体のテイストの違いを如実に表している。

本作はユマ・サーマンに色々なことをさせていてハリウッドのセレブも大変だと思った。特に土の中から這い出るシーンは体を張っている。いくら仕事とはいえ、あんなに土まみれになるのはすごい。また、終盤でビルがスーパーマンについて話しているが、それがヒーローものに対する優れた批評になっていて面白い。確かにスーパーマンだけ他のヒーローとは違う。この批評はおたく監督の面目躍如といった感じだ。

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