海外文学読書録

書評と感想

京田知己『交響詩篇エウレカセブン』(2005-2006)

★★★

辺境の地ベルフォレスト。14歳のレントン三瓶由布子)は英雄を父に持ち、現在は整備工の祖父と2人暮らし。リフをするのが楽しみの明るい少年だった。ある日、自宅に巨大ロボット・ニルヴァーシュが墜落してくる。ニルヴァーシュパイロットはエウレカ名塚佳織)という名の神秘的な少女だった。レントンエウレカの世界を懸けた恋が始まる。

全50話。

正直、ゼロ年代に流行ったセカイ系アニメに対しては苦手意識が強い。しかし、本作は見る前から一定の覚悟をしていたのでまあまあ楽しめた。何よりSFアニメとしてよく出来ている。世界観が作り込まれているうえ、数々の謎を解き明かしていく筋立てに驚きがあるのだ。敵が何か怪しい陰謀を企てている。それは何なのか。エウレカにはどこか普通でない雰囲気がある。正体は何なのか。そして、この世界には人類の存亡に関わるとんでもない秘密がある。最終的には惑星を揺るがすスケールの大きい話になっていて、これぞセカイ系という感じだった。

本作で面白いのは、「メンヘラ女と理解のある彼くん」という構図を採用しているところだ。ヒロインのエウレカは戦闘少女であり、かつて市民を虐殺したことから大きなトラウマを抱えている。おまけにその出自に曰くがあった。しかし、レントンはそんなエウレカに惚れ、彼女の助けになりたいと心を砕く。レントンは「理解のある彼くん」になるべく成長していくのだった。また、敵対する塔州連邦軍にはアネモネ小清水亜美)という戦闘少女がいる。彼女の側にはドミニク(山崎樹範)という世話係が仕えており、わがままなアネモネの振る舞いに日々翻弄されている。この2人の関係も「メンヘラ女と理解のある彼くん」である。アネモネは戦闘するのに薬物注射を必要としていて、それを「彼くん」であるドミニクが投与している。アネモネは薬物によって一時的に覚醒するものの、長期的には体を蝕んでいた。ドミニクはそんなアネモネを心配している。薬物を必要とする「メンヘラ女」に望むがまま与える「彼くん」。本作は共依存的な男女関係を描いている。

レントンエウレカにぞっこんなのは庇護欲を感じさせるからだし、ドミニクがアネモネに惹かれるのも同様である。つまり、「メンヘラ女と理解のある彼くん」のポイントは庇護欲なのだ。自分が側にいないと駄目だと思わせる。そして、この庇護欲はホランド藤原啓治)とタルホ(根谷美智子)の関係にも及んでいて、タルホはホランドに庇護欲を感じているから見捨てないでいる。彼女は恋人と同時に母親の役目も担っているのだ。この庇護欲を鎹にした関係はおそらくセカイ系の特徴なのだろう。セカイという重荷を背負った少女を少年が庇護しようとする。そこには拭い難いメサイアコンプレックスがまとわり付いている。

劇中では女性陣の妊孕性が重視され*1、最終的には「家族」がテーマとして浮上してくる。このようにロマンティック・ラブ・イデオロギーが横たわっているところも本作の特徴だ。セカイ系とは思いのほか保守的のようで興味深い。

*1:レイ(久川綾)はエウレカのせいで不妊症になっているし、タルホはホランドの子を身ごもっている。エウレカも自身の妊孕性について気にしていた。