海外文学読書録

書評と感想

本宮ひろ志『天地を喰らう』(1983-1984)

天地を喰らう 第1巻

天地を喰らう 第1巻

Amazon

★★★

後漢末期。天界を率いる竜王には2人の娘がおり、彼女たちは若返るために男の初精を必要としていた。劉備諸葛亮が姉妹と交わる。やがて劉備は鬼を退治することで「肝っ玉」を手に入れ、関羽張飛と義兄弟の契りを結ぶことに。彼らは黄巾党の討伐に乗り出す。

全7巻。

かつてカプコンのゲーム(ファミコンRPGとアーケードのアクションゲーム)をやり込んだものの、原作は未読だった。今回初めて読んだけれど、本作を膨らませてあのような傑作ゲーム群を作ったカプコンは偉大だと実感した。

同時代に横山光輝の『三国志』(1971年から1987年まで連載)があったので、それと差別化する意図があったのだろう。本作はとにかく伝奇要素が強い。最初の1巻は丸々天界の話だし、黄巾党の首領・張角は実は魔界の王だったというギミックもある。しかも、張角を倒したら死体が108の魔星に分かれて各地の英雄――董卓曹操袁紹など――に乗り移った。もちろん、これは『水滸伝』から拝借している。一連の伝奇要素は話が進むうちに薄れていくものの、竜王の娘はちょくちょく顔を見せている。そして、彼女たちだけキャラデザが一味違っていた。特に妹は少女漫画風の顔立ちに『幻夢戦記レダ』のような無駄にセクシーな衣装である。これはおそらく作者の妻もりたじゅんが描いていたのだろう。中国が舞台なのに中国っぽくないところが印象的だ。

カプコンのゲームはこの伝奇要素をばっさりカットしている。本宮ひろ志のキャラクターだけ頂いて正統的な『三国志』の物語を展開しているのだ。原作は董卓が死んだところで終わった。それに対し、ゲームはその後もしっかりフォローしている。アーケード版は赤壁の戦いまでを扱い、ファミコン版は司馬懿との対決まで進めてきっちり終わらせている。僕からしたら本作はあくまでゲームにネタを提供した素材に過ぎない。この漫画を元にしてあんなゲームを作ったのか! という驚きがある。カプコンと言えば、『ジョジョの奇妙な冒険』の格ゲーも素晴らしい再現度だったわけで、原作付きのゲームを作らせたら天下一品だと言える。

横山光輝の『三国志』に比べると、豪傑が豪傑らしく描かれているところがいい。関羽張飛呂布など、豪傑たちはみな男性ホルモンに満ち溢れている。また、呂布が西洋人とのハーフだったり、趙雲がイケメンだったりするところも新機軸だ。趙雲については、横山光輝の『三国志』ではむさ苦しいおっさんだった。それがイケメンになったのは、1982年に放送された『人形劇 三国志』の影響だろう。この作品の趙雲もイケメンである。『人形劇 三国志』は日本の『三国志』受容におけるメルクマールとなった作品。本宮ひろ志は新しいものを取り入れることに関して貪欲だったようだ。

というわけで、本作を読んでカプコンの偉大さに胸を打たれた。アーケード版はPS4やSwitchでダウンロードできるようなので、興味を持たれた方は是非プレイされたい。