海外文学読書録

書評と感想

ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンズ『ウエスト・サイド物語』(1961/米)

★★★★

マンハッタン。当地では2つの不良少年団が対立していた。1つはポーランド系アメリカ人のジェット団。もう1つはプエルトリコ系アメリカ人のシャーク団。ジェット団のボスはリフ(ラス・タンブリン)、シャーク団のボスはベルナルド(ジョージ・チャキリス)である。ある日、リフは親友のトニー(リチャード・ベイマー)をダンスパーティーに誘う。そこにはベルナルドの妹マリア(ナタリー・ウッド)も来ていた。トニーとマリアは互いに一目惚れする。

ミュージカル映画としての完成度は後の『サウンド・オブ・ミュージック』に譲るものの、本作は新しいことをやろうという気概が感じられて良かった。とにかくモダンバレエを基調としたダンスが格好いい。しかも、そのダンスを適切なカット割りで惜しみなく見せてくれる。そんなことができるのも演者に実力があるからだろう(編集で誤魔化さなくていい)。ミュージカル映画の肝は身体表現をどれだけ輝かせるかである。そういう意味で満足度が高かった。

本作において武闘は舞踏によって表現される。だからリアルな暴力表現ではないのだが、そもそもアクション映画の殺陣はどれも手順に沿った舞踏だろう。そのことが如実に表れているのが、高速道路下での乱闘だ。ここでは死人が出るほどの抗争が行われる。しかし、その表現は徹頭徹尾舞踏だ。暴力を暴力としてではなく、茶番と紙一重の舞踏によって表現する。映画における武闘はすべて舞踏に還元されるわけで、この部分は極めて批評的である。

ポーランド系アメリカ人のジェット団はおそらく移民2世の集団だろう。上の世代は第二次世界大戦のときに移民してきた。推定年代は1939年。一方、プエルトリコ系アメリカ人のシャーク団は最近移民している。プエルトリコが内政自治権を得た時期ではないか。推定年代は1952年。ジェット団の少年たちはアメリカ人として一応は馴染んでいる。それに対してシャーク団は未だに移民意識が抜けない。アメリカとプエルトリコでアイデンティティが引き裂かれている。抗争の本質は先住移民と新興移民による勢力争いであり、ジェット団はシャーク団に対して先輩風を吹かせている。このように時間のズレが背景にあるところが目を引く。

本作の主役はトニーとマリアだが、リフやベルナルドに比べると影が薄い。それは彼らが歌ってばかりでダンスをしないからだ。そして、出会って3秒で相思相愛になっているため、仲良くなるプロセスが描かれない。主役にしては空虚な駒なのである。トニーもマリアも目の前の異常事態に対して型にはまったリアクションしかしない。特にマリアは類型的なヒステリー女だ。常に感情的な反応しかしない。だから存在に重みがないのである。

ベルナルド役のジョージ・チャキリスが格好良かった。紫のシャツに黒いスーツで決めているところなんて惚れ惚れする。しかも、彼はダンスがめちゃくちゃ上手い。そのせいか主演の2人よりも断然目立っている。ミュージカル映画においてダンスができるのは重要だと感じる。