海外文学読書録

書評と感想

ロバート・ワイズ『サウンド・オブ・ミュージック』(1965/米)

★★★★★

1930年代のザルツブルク。見習い修道女のマリア(ジュリー・アンドリュース)が、家庭教師としてトラップ大佐(クリストファー・プラマー)の屋敷に派遣される。トラップ大佐は妻と死に別れており、残された7人の子供たちと隠居暮らしをしていた。トラップ大佐は軍隊式の規律で子供たちを躾けている。マリアは子供たちに音楽を教え、そこから一家の心を掴んでいく。

歴史の改竄には問題があるにしても、ミュージカル映画としてはやはり傑作と言うしかないだろう。とにかく歌と映像が素晴らしい。前回はSD画質(DVD)で観て、今回はHD画質(VOD)で観たのだが、記憶よりも格段に絵が綺麗だった。現代の映画と言われても違和感がないくらいである。空撮から草原のマリアに焦点を移す冒頭からしてただものじゃなくて、屋外撮影の技術はこの時点で完成していたのだなと思った。また、背景も美しい。石造りの建物には重厚感があるし、邸内の美術は豪華だし、書き割りを使っていた時代とは隔世の感がある。

マリアはADHDと診断されてもおかしくないくらい行動的なのだけど、そんな彼女が修道女から「月の光は捕まえようがありません」と歌われていて、人に恵まれたやさしい世界だなと思った。実際、悪人らしい悪人はナチス関係者くらいしか出てこない。たとえば、恋のライバルである男爵夫人でさえも、トラップ大佐から別れを告げられた際にはすがすがしく身を引いている。あのポジションのキャラはいくらでも悪くできたはずなので、この爽やかさには驚いた。本作は不穏な時代を扱いながらも、決定的な危機は描かれず、観客に余計なストレスを与えないタイプの映画だと言える。

音楽を題材にした映画なので、ミュージカル形式とは相性がばっちりだし、これは原作との巡り合わせが良かったと納得するしかないだろう。本を読まない人間はいても、音楽を聴かない人間はいない。映画を観ない人間はいても、音楽を聴かない人間はいない。音楽とは人の心を潤す清涼剤であり、だからこそ本作みたいな音楽讃歌に心を動かされるのだ。ノーミュージックノーライフ。本作の舞台が音楽の国オーストリアであるところも華を添えている。僕は死ぬまで音楽を聴き続けるだろうし、その過程でどんどん新しいジャンルを開拓していくだろう。本作を観て、人生の楽しみを再確認したのだった。

本作を最初に観たのは中学校の音楽の授業だった。とても衝撃的だった。この手の映画は大人になってから見返すとつまらなく感じるものだが、実際に見返しても全然色褪せていなかった。そういう意味では稀有な映画と言える。