海外文学読書録

書評と感想

セルジオ・レオーネ『夕陽のガンマン』(1965/伊=独=スペイン)

★★★★

服役中の悪党インディオジャン・マリア・ヴォロンテ)が仲間の助けを借りて脱獄する。賞金稼ぎのモンコ(クリント・イーストウッド)と同じく賞金稼ぎのモーティマー大佐(リー・ヴァン・クリーフ)がインディオ一味の首を狙っていた。2人は賞金の山分けを条件に協力する。インディオ一味はエルパソ銀行の襲撃を計画しており……。

マカロニ・ウェスタン。量産型より豪華に見えるのはクリント・イーストウッドリー・ヴァン・クリーフに華があるからだろうか。2人の賞金稼ぎがならず者を追い回す。復讐が通奏低音にあるところもいかにもマカロニ・ウェスタンだが、因縁が明らかになるのは終盤である。あいつはお前の妹だったのか! という驚きがあった。

同じ獲物を追っていたモンコとモーティマーが初めて相対するシーンが良かった。西部劇の場合、男と男が出会ったら意地を張らなければいならない。どちらが格上か決めなければならない。最初にモンコがモーティマーの足を踏みつける。モーティマーがやり返す。そしたらモンコがモーティマーを殴り飛ばした。モーティマーが自分の帽子を拾おうとしたところ、モンコはその帽子を拳銃で弾き飛ばしている。それを何度か繰り返した後、いい感じの距離で今度はモーティマーがモンコの帽子を拳銃で弾き飛ばした。それから空中の帽子を何度も弾き飛ばしている。2人は激昂して撃ち合ったりはしない。まるで互いの実力を測るかのように拳銃を使った余興が行われている。最終的には酒を酌み交わして同盟を結んでいるので、このやりとりも無駄ではなかった。2人の実力者が器量と力量を見せつけている。

悪党のインディオが悪党のわりにフェアネスを心がけているところが面白い。たとえば終盤、モーティマーに対して有利な状況になったのに早撃ち勝負を挑んでいる。並の悪党だったらそんなことしない。これは男性性の競い合いであると同時に、いつ死んでも構わないという破滅願望が組み合わされているのだろう。インディオは過去に女を巡るトラブルがあり(そのトラブルで女は死んだ)、女が持っていたオルゴールのペンダントを持ち歩いている。早撃ち勝負をするときはオルゴールを利用して勝負していた。ペンダントの内部には女の写真が取り付けられている。それを見ながら開始の時を待っているわけで、インディオには女の後を追って死んでもいいという諦念があったに違いない。終盤の見せ場はインディオの破滅願望によってお膳立てされている。

集団による戦闘も悪くないが、やはり西部劇に期待しているのは1対1の早撃ち勝負で、おいしいところはモーティマーが持っていった。自分が貰うはずだった賞金も気前よくモンコに譲って立ち去っている。モーティマーの振る舞いは徹頭徹尾クールである。モンコ役のクリント・イーストウッドとモーティマー役のリー・ヴァン・クリーフ。2人は甲乙つけ難いほどの格好良さだった。