海外文学読書録

書評と感想

クリント・イーストウッド『クライ・マッチョ』(2021/米)

★★★

1979年のテキサス。元ロデオスターのマイク(クリント・イーストウッド)は老齢を理由に牧場をクビになった。翌年、牧場主(ドワイト・ヨアカム)が尋ねてきてマイクに依頼をする。メキシコに住む13歳の息子ラフォ(エドゥアルド・ミネット)を連れてきてほしいという。牧場主に借りがあるマイクはメキシコへ。ラフォはマッチョと名付けた闘鶏を連れてストリートチルドレンになっていた。ラフォを無事確保したマイクはレストランでマルタ(ナタリア・トラヴェン)と出会う。

原作はN・リチャード・ナッシュの同名小説

撮影とロケーションが素晴らしかった。荒野を中心とした景色やうらぶれた建物も抜群なのだが、特に太陽の映し方が印象に残る。斜めから差し込む太陽の光。建物の隙間から顔を出す朝日。こういうのを見るとメキシコは太陽の国なのだと思う。本作は総合的には地味な小品であるものの、やはり映像がいい映画は見ていて気持ちがいいことは確かで、ちょっと評価が底上げされたかもしれない。映画らしい映像を見せてくれて目の保養になった。撮影のベン・デイヴィスはとてもいい仕事をしている。

91歳のクリント・イーストウッドが二足歩行していることに驚く。この年齢ってだいたいは要介護ではなかろうか。しかも、車を運転しているし、あまつさえ馬にまで乗っている。どうやって健康を維持しているのか不思議でならない。そもそもちゃんとセリフを言えてるのも奇跡だろう(発話はちょっと辛そうだが)。つまり、痴呆症でもないのだ。僕も将来は健康的な老人になりたいので是非健康法を教えてほしい。

イーストウッド演じるマイクは見るからによぼよぼなのだが、なぜか女にモテていて苦笑した。目的地に着いた際は牧場主の元妻(フェルナンダ・ウレホラ)にベッドに誘われている。さすがに薬なしじゃ勃起しないだろうし、仮にセックスしたとしてもショックで死んでしまうだろう。そう思わせるくらい性とは無縁そうある。牧場主の元妻はアラフォーっぽいが、後期高齢者をベッドに誘う意味が分からない。また、帰り道ではマルタという寡婦と懇ろになっている。マルタには孫がいるが、見た感じアラフィフといったところだ。ロマンスを演じるにはまだまだ釣り合わない。立っているのがやっとの老人と生命力に溢れた熟女の組み合わせ。観客が見ているマイクと登場人物が見ているマイクは別人なのではないか。そう疑ってしまうほど場違いなことをしている。

最終的には男2人――マイクとラフォ――がそれぞれ安住の地にたどり着く。マイクがマルタとくっつくのは別にいいだろう。だが、ラフォが父親に引き取られるのはいいことなのだろうか。劇中で説明された通り、父親がラフォを引き取るのは金のためである。ラフォが可愛いからではない。ラフォはメキシコで母親とその愛人たちから虐待を受け、やむなくストリートチルドレンになった。それに比べたら父親の元で暮らしたほうがマシに思える。しかし、父親もラフォを愛してないことは確かなので、何かの拍子に虐待する可能性もある。本当はマイクと一緒にマルタの元に残ったほうが良かったのではないか。ラフォが父親の元で暮らすのは不確定要素が多いのだ。再会して抱き合ったとはいえ、あの終わり方は素直に祝っていいのか分からなかった。

荒馬を慣らすシーンはスタントマンが演じているのだろうが、21世紀にああいう映像が見られたのは望外の喜びだった。本作は撮影とロケーションが素晴らしい映画である。