海外文学読書録

書評と感想

ジェスミン・ウォード『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』(2017)

★★★★

ミシシッピ州の架空の街ボア・ソバージュ。13歳になったばかりの少年ジョジョは、祖父のことを「父さん」と呼び、祖母のことを「母さん」と呼んでいた。ジョジョは白人と黒人の混血で、下には妹ケイラがいる。今回、実父のマイケルが刑務所から出所するため、実母のレオニはジョジョとケイラを伴って迎えに行くことに。しかし、ジョジョも「お父さん」も気が乗らないのだった。

「おれにとって、これはそいつを見つける旅なんだ」

「そいつって?」

「歌だよ。その場所というのは歌で、おれはその歌の一部になる」

「支離滅裂だな」(p.200)

全米図書賞受賞作。

親子3代のスケールで捉えた家族小説であると同時に、『ビラヴド』【Amazon】を本歌取りしたゴースト・ストーリーでもある。過去に黒人がいかにして虐げられ、その名残りがいかにして現在にまで継承されているのか。そういうレトロな要素を踏まえつつも現代小説らしい多声的な語りが展開していて、黒人文学の最新アップデート版になっている。工夫次第では21世紀になっても本作みたいな堂々たる小説が書けるようだ。僕のなかで黒人文学は2003年の『地図になかった世界』で止まっていたが、まだまだオワコンじゃないことが分かって安心した。人種問題という鉱脈は今も健在だったのだ。

家族小説として面白いのは、ジョジョの家庭が破綻しかけているところだろう。あらすじに書いた通り、ジョジョは祖父のことを「父さん」と呼び、祖母のことを「母さん」と呼んでいる。ジョジョは2人に懐いている一方、実の父母であるマイケルとレオニのことは信頼していない。心理的に距離を置いている。また、マイケルとレオニの馴れ初めには曰くがあって、ギヴンという身内を亡くした末の関係なのだった。ご多分に漏れず、レオニは避妊に失敗して若いうちに子供を産んでいる。この辺はいかにも現代のアメリカ人家庭という感じだが、そんな本作を彩っているのが「父さん」の過去だろう。彼は15歳のときに刑務所に入っており、そのエピソードを孫のジョジョに語って聞かせている。これがまた壮絶で、戦後の話とは思えないくらい人権が蹂躙されていたのだった。奴隷制がなくなって久しいとはいえ、白人が黒人を支配する構図は変わらない。そういった現実を迫真のディテールで語るところが面白く、平和ボケした僕が抱える怖いもの見たさを満たしてくれる。

「父さん」の過去に出てくるリッチーは、複数いる語り手の一人として重要な役割を果たしている。彼を巡るスピリチュアルな事象もフィクションらしくて心が惹かれるが、やはりもっとも印象的なのがその顛末だろう。「父さん」が下す重い決断を淡々と描くところにすごみがあって、これぞ文学を読む醍醐味だと膝を打った。小説にせよアニメにせよ、フィクションとはどこにピークを持っていくのか、そのピークをいかにして表現するのか、そこが重要だと思う。その点、本作は予想以上のものを見せてくれたので満足度が高かった。