海外文学読書録

書評と感想

ラオール・ウォルシュ『遠い太鼓』(1951/米)

★★

1840年のフロリダ。当地ではセミノール族が砦を占拠して大量の武器を蓄えていた。ワイアット大尉(ゲイリー・クーパー)率いる兵士たちが砦を襲撃して捕虜を救う。捕虜の中にはジュディ(マリ・アルドン)もいた。一行は砦を爆破するも、アクシデントによってセミノール族の集団に追いかけられ、沼地を逃避行する。

ヘビやらワニやらが出てきて、まるでB級映画みたいだった。ジャングルを舞台にしているところは、後のベトナム戦争映画を先取りしているかもしれない。こういう泥臭い逃避行は西部劇としては異色で、たとえばアラスカを舞台にした『スポイラース』よりも強烈だった。

突拍子もない舞台設定ゆえか、細かい時代考証が気になった。砦を見張っている連中がシャツを着てズボンを履いていたのだけど、彼らは何者なのか? セミノール族なのか? それとも、武器商人絡みの傭兵なのか? 後から出てきたセミノール族が民族衣装を着ていたので、どうやら別個のグループと捉えたほうが良さそうである。この辺の設定がよく分からなかった。

また、セミノール族の村に藁葺き屋根の建物が建っていて、ワイアット大尉がそこに入る。すると、ワニの入った小さい池があり、アメリカ人捕虜がそこに放り込まれて死亡していた。こういう風習って実際にあったのだろうか? 直感的に『ディア・ハンター』【Amazon】のロシアンルーレットを連想してしまい、どうにも身が入らなかった。

この時代の映画はロマンスの相手として女を必要としており、本作でも不自然な形でヒロインが登場している。ジャングルを逃避行しているのに、顔も服も綺麗なままなのは特筆すべきだろう(ただし、これはヒロインに限ったことではない)。ハリウッド映画がリアリティを追求するのはもっと後の時代になってからのようで、その緩さが良くも悪くもクラシカルだった。

セミノール族がナイフを持って夜襲をかけてくるところは、後のベトナム戦争映画を彷彿とさせて興奮した。ジャングルだと必然的にそういう戦闘になるのだろう。また、捕らえたインディアンを木に縛り付け、毒蛇を向けて脅すところが妙に可笑しかった。なぜ、銃やナイフではなく毒蛇を使うのだろう? だいたい毒蛇だと脅すほうにもリスクがあるではないか。この辺はいかにもビジュアル重視という感じだった。

撮影では水中カメラを使用しているのが印象的である。ただ、それゆえに半端なB級感が出ていて、最先端の技術も使いどころが難しいと思った。