海外文学読書録

書評と感想

デイミアン・チャゼル『セッション』(2014/米)

セッション(字幕版)

セッション(字幕版)

  • マイルズ・テラー
Amazon

★★★★

名門音楽大学の1年生アンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)は、テレンス・フレッチャー教授(J・K・シモンズ)に認められ、彼が指揮する学内バンドの練習に参加することに。そこで罵倒や体罰を含む厳しいシゴキを受けるのだった。アンドリューは偉大なジャズドラマーになる決心を強め、次第にエゴを剥き出しにしていく。

『響け!ユーフォニアム』【Amazon】を過激にしたような映画だった。厳格な指導者とそれに食らいつく生徒という図式は、日本もアメリカも好む題材らしい。ただ、『響け!ユーフォニアム』は抑制が効いていてリアリティがあったのに対し、本作は情熱が行き過ぎて狂気にまで達している。そのぶん荒唐無稽に見えた。

ジャズバンドに軍隊式の鬼教官を持ち込む。そこが本作の新しいところだろう。フレッチャー教授は普段は人間味に溢れているものの、ジャズの指導になると途端に人格が変貌する。生徒たちに容赦ない罵倒を浴びせ、アンドリューに対しては椅子を投げたりビンタをしたり、常軌を逸したスパルタ教育を施している。その様子はまるで『フルメタル・ジャケット』【Amazon】のハートマン軍曹のようだ。大学なのに生徒たちの人権を全力で蹂躙している。一流のバンドマンを育てるにはここまでしないといけないのか、と戦慄した。

ジャズバンドの練習風景は吹奏楽部の強豪校みたいな印象だった。バンドメンバーはフレッチャー教授の理想とする演奏をしなければならない。テンポや音程を厳しくチェックされ、機械のような正確な演奏を要求されている。しかし、ここで僕は疑問に思う。ジャズってもっと自由なのではないか、と。吹奏楽とは違い、ステージで即興すらするジャンルである。そこはもっと創意工夫を伸ばすような指導が適切なのではないか。本作が周到なのは、そういう疑問が伏線として最後に回収されるところだ。なかなかよくできた脚本だと思う。

ラストのドラムソロは圧倒的で、これを見れただけでも元が取れた。ここではアンドリューとフレッチャー、2つの個性が演奏者と指揮者という立場で対立している。しかし、どちらも本番のステージに立っているため、客前で最高のパフォーマンスを発揮しなければならない。それが2人の共通認識としてある。ステージとは自己表現の場であると同時に、客を楽しませる場でもあるのだ。アンドリューの即興演奏は、フレッチャーの管理演奏とは正反対のやり方だが、最後には両者が止揚して映画は終わる。その終わった瞬間にカタルシスがあって良かった。やはり音楽映画は音楽で語ってなんぼである。ぶつ切りのラストが心地いい。

というわけで、『響け!ユーフォニアム』が好きな人は本作も見るべきだろう。フレッチャー教授は滝昇(『響け!ユーフォニアム』に出てくる吹奏楽部顧問)を過激化した感じでめちゃくちゃ面白い。吹奏楽もジャズも体育会系であることがよく分かる。