海外文学読書録

書評と感想

ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』(2019/韓国)

★★★★

アパートの半地下に住む一家4人(父・母・息子・娘)は内職で生計を立てていた。そんななか、息子ギウ(チェ・ウシク)の元に家庭教師の話が舞い込んでくる。職場は高台の高級住宅地だった。やがて娘ギジョン(パク・ソダム)もそこで働くようになり、父ギテク(ソン・ガンホ)、母チュンスク(チャン・ヘジン)もそれぞれ運転手や家政婦として雇われる。雇用主は彼らが家族であることを知らず……。

格差社会というシリアスなテーマをエンタメ仕立てで見せたところが良かった。

半地下に住むキム家と高台に住むパク家は、その高低差から明らかなように歴然たる階級差がある。貧困層のキム家が富裕層のパク家に入り込んでさあどうなるかと思ったら、そこは意外な展開が待っていた。結局のところ、現代社会において異なる階級間の上下動はなく、あるのは同じ階級間での椅子取りゲームのみである。貧困層が富裕層を乗っ取るなんて夢のまた夢。せいぜい地下室に隠れ住むのが関の山なのだ。キム家の人たちはパク家の人たちの純粋さ・騙されやすさにつけ込んだ。しかし、それでも階級を転覆させるほどの成果は挙げられなかった。彼らのしたことと言ったら、パク家の人たちが留守のときに無断で家を借りて飲み食いしたくらいである。現代において、かつてあったような階級闘争は存在し得ない。貧困層貧困層のまま、身の丈に合った生活を強いられる。

階級を示すものとして「匂い」を用いているところが面白い。キム家の人たちは総じて優秀で、パク家における要求水準の高い仕事を難なくこなしている。人間関係も良好で、息子ギウに至ってはパク家の娘と恋仲になっていた。ところが、身に染み付いた半地下の匂いだけは拭えない。いくら優秀でも階級だけは誤魔化せないのだ。一般論として、人の匂いを悪く言うことはその人の名誉を傷つける行為である。たとえば、「くさい」という言葉は小学生のいじめの常套句だろう。終盤、この「匂い」が悲劇のトリガーになるのも必然で、貧困層にも尊厳があることを思い知らされる。一撃必殺があるからこそ無敵の人は侮れない。理不尽な暴力性の発露に階級闘争の片鱗を窺わせる。

パク家の夫婦がソファーの上でペッティングする中、キム家の人たちはテーブルの下で声を押し殺して隠れている。このシーンの高低差も階級の象徴だし、行為の違いもやはり階級差が表れている。富裕層は好きな場所で堂々と振る舞える。それに対し、貧困層は部屋の隅で縮こまってやり過ごすしかない。物理的な距離は近くても、階級的な距離は遠いのである。これぞ現代社会の縮図といった感じで物悲しい。

富をもたらすはずの山水景石が、実際には不幸しかもたらさなかったのも皮肉だ。切羽詰まった人生は石ごときではどうにもならない。貧困層は迷信にも縋れないのだった。