海外文学読書録

書評と感想

深作欣二『仁義なき戦い』(1973/日)

★★★

広島県呉市。復員した広能昌三(菅原文太)が闇市で殺人を犯して服役する。刑務所で土居組の若杉寛(梅宮辰夫)と義兄弟になった広能は、出所後、若杉の伝手で山守組に入る。やがて山守組と土居組は敵対関係になるのだった。土居組が落ち目になった後は組長(金子信雄)の代わりに若頭の坂井鉄也(松方弘樹)が台頭し、山守組は内紛状態になる。

原作は飯干晃一のノンフィクション【Amazon】。

やくざ映画は人間関係の映画なのだと思った。組という組織があって、縦の関係や横の関係があって、仲の良い組と仲の悪い組がある。組織を扱っているから当然出てくる人物は多い。それぞれの駒がどういう動きをして、どういう結果を出して、どのように物事が推移していくのか。おそらく相関図を作って人間関係を把握しながら観るのが正しい楽しみ方なのだろう。その点で言えば、本作は『ゴッドファーザー』よりも『ゲーム・オブ・スローンズ』に近いかもしれない。

菅原文太演じる広能は、めちゃくちゃ格好いい面構えをしているのに、やってることと言ったらただの鉄砲玉なのだからずっこける。老獪な組長に利用されるだけの存在だ。終盤までは「お前、タヌキ親父に騙されてるんやで」とツッコミながら見ていた。このジャンルの文脈はよく分からないが、おそらくそういう捨て駒を主人公にしているところが新しいのだろう。なぜ本作が「仁義なき戦い」にまで発展したのかと言えば、上に立つ人間が不義理をしているからで、これは帝王学の教科書になりそうである。アメとムチの使い分けは重要だと思った。

上納金が高すぎて組内で揉めているところは、2015年に起きた山口組の分裂騒動を思い出した。すなわち、司忍率いる六代目山口組から神戸山口組が分裂した事件。その後、神戸山口組から任侠山口組が分裂しているが、これらの原因は上納金が高すぎるからだった。いつの時代もやくざが揉めるポイントは同じなのだなあと微笑ましくなる。結局のところ、上納金とはカタギの世界で言えば税金なので、あまり取りすぎても良くないのだ。適度に搾取するのが上手な支配のやり方である。それを考えると、日本政府は上手く我々を搾取していると思う。消費税が上がっても内閣の支持率はあまり下がらなかったから。日本人には奴隷根性が染みついている。

やくざの世界において「男にしちゃる」というのは殺し文句だ。これを言われたら逆らうことができない。極道は周囲に強い男性性を見せる必要があるから、不本意でも従うしかないのである。見栄というか建前というか、そういう虚像を維持するために行動が制限されるのはさぞかし窮屈だろう。やくざの世界は日本においてもっともジェンダー規範の厳しい世界であり、彼らは彼らなりに生きづらさを抱えている。