海外文学読書録

書評と感想

ロベール・アンリコ『オー!』(1968/仏=伊)

★★★

5年前。カーレーサーだったフランソワ・オラン(ジャン=ポール・ベルモンド)は事故を起こしてライセンスを剥奪された。現在はギャングの運転手をしている。彼はそこで「オー」と呼ばれており、銀行強盗をしつつモデルのベネディット(ジョアンナ・シムカス)と交際していた。ある日、銀行を襲撃しようとした際にボスが拳銃の暴発で死んでしまう。フランソワは彼の後釜を狙うが……。

犯罪映画。マスコミによって作られた名声がいかに空虚であるかを示したのが良かった。新聞と結託して有名になったフランソワは最後、カメラマンの絶え間ないフラッシュに晒されて終わる。新聞は英雄を求める一方、英雄の失墜も望んでいた。ギャングといえば裏社会の人間だが、その栄枯盛衰にマスコミを絡めたところが面白い。アル・カポネ山口組組長など、反社が公然と顔を晒しているのを思い出す。

フランソワはギャングとはいえ運転手でしかなかったから、他のメンバーから軽んじられている。とてもボスの後釜を狙える立場ではない。しかし、そんな彼も脱獄を成功させ、新聞の一面に顔写真が載ることで有名になるのだった。フランソワは銀行強盗の黒幕だと報じられている。皮肉にもギャングのボスという虚像が作られてしまうのだから面白い。後にその知名度を利用してチンピラ3人を強盗に誘っている。フランソワの悩みは一緒に強盗する仲間がいないことだったが、その壁を見事乗り越えた。彼はなかなか優秀で、脱獄を難なく成功させたし、行きずりの仲間との強盗もきっちり成功させている。ギャングとして才能があることを証明した。

とはいえ、銀行強盗なんて持続可能な商売ではない。いつかは失敗して逮捕される。フランソワは恋人のベネディットと口論するが、その際、ベネディットのことをブルジョワ呼ばわりしている。ベネディットは雑誌の表紙を飾るほどのモデルだ。フランソワにとってベネディットは、女性性を利用して楽に稼いでいるようにしか見えない。リスクを負って稼いでいる自分とは大違いである。反社のくせに何て自意識だと思うが、彼は新聞によって時の人になっているから無理もない。破滅に向かってまっしぐらという感じである。

警察が新聞広告を罠として利用しているところが巧妙だ。現代の日本人からは想像もつかないが、当時のフランス人はみんな新聞を読んでいた。特にフランソワのような人間は、自分について書かれた記事を血眼になって探している。だからこそ引っ掛けることができた(フランソワの特殊な趣味を利用しているところがいい)。新聞もテレビも見ない現代人にとっては隔世の感がある。

犯罪映画を観るたびに思うのが銃器の強さで、2人の人間が対立した場合は先に銃を突きつけたほうが有利になる。相手を従わせて場を支配することができる。銃は殺傷能力が高いゆえに抑止力として有効だった。暴力装置として有無を言わせないところにぞくぞくする。