海外文学読書録

書評と感想

『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011-2019)

★★★★★

北部を領地とするエダード・スターク(ショーン・ビーン)は、七王国の王ロバート・バラシオン(マーク・アディ)に仕えていた。エダードにはロブ(リチャード・マッデン)、サンサ(ソフィー・ターナー)、アリア(メイジー・ウィリアムズ)、ブラン(アイザックヘンプステッド=ライト)、リコン(アート・パーキンソン)、ジョン(キット・ハリントン)の6人の子供がいる。そのうちジョンは落とし子だった。一方、海の向こうではターガリエン家のヴィセーリス(ハリー・ロイド)が妹デナーリス(エミリア・クラーク)と共に亡命し、七王国の王位を窺っている。やがて七王国で政変が起きて……。

全8シリーズ73話。

原作はジョージ・R・R・マーティン氷と炎の歌』【Amazon】。原作未完のままドラマのほうが先行して最終話を迎えている。

中世ヨーロッパをモデルにしたファンタジー作品である。内容はNHK大河ドラマの上位互換で、金をかけて作れるドラマの上限値といったところ。ロケーションの多彩さと美術の説得力は群を抜いている。また、洋ドラらしい群像劇も並外れて面白く、様々な人物に因縁を作り、それらが解消されていく手際は鮮やかだった。基本的には因果応報の物語になっていて、悪どいことをした者はその報いを受けている。シーズン7に入ってから、すなわち、登場人物を合流させてからが冗長だったものの、本作がドラマの水準を上げたことは間違いない。今後、ファンタジーや時代劇を作る際は本作と比べられてしまうから大変である。

登場人物が殺しを躊躇わないところが印象深い。女子供でさえもナイフで喉を掻き切ったり、腹をブスブス刺したりしている。これは中世的な野蛮さの表れなのだろうけど、変に葛藤しないぶん、見ているほうとしてはストレスがない。逆に心地よい衝撃に身を委ねることができる。暴力描写の残酷さは本作の特徴のひとつで、リアルだからこそこちらの怖いもの見たさを満たしてくれる。戦乱を題材としたドラマの醍醐味は、この手の非日常を鼻先に突きつけてくるところだろう。世界の本質は暴力にあると言わんばかりの描写でぎょっとする。

映像面でもっともインパクトがあったのが、シーズン5エピソード10である。ここでは宗教勢力に捕らえられたサーセイ(レナ・ヘディ)が、贖罪のために裸で街中を練り歩くことになる。その際、怒り狂った群衆から罵られたり、物を投げられたり、散々な目に遭っている。この圧倒的恥辱と圧倒的狂騒は他に類例がなく、宗教がもたらす狂気を存分に味わうことができた。後にこの宗教勢力がみな爆殺されるところも心憎い。中世といったらキリスト教が横暴を極めていたわけで、ここにも相応の野蛮さが発揮されている。

金をかけているだけあって合戦シーンも迫力がある。惜しみなく物量を投入しているところが気持ちいいのだ。合戦シーンで一番気に入っているのが、シーズン6エピソード9で行われた「落とし子の戦い」である。ジョン・スノウが率いる北部軍が、ラムジー(イワン・リオン)率いるボルトン軍と激突する。ここは槍兵の使い方が面白かった。劣勢の北部軍が敵の槍兵に囲まれてしまうのである。その際、槍兵は全身を覆う巨大な盾を構えつつ、槍だけ前に突き出しているという状態。合図と共に前進して中にいる北部軍を圧殺している。この戦術は初めて見るのでインパクトが大きかった。シンプルでいてなかなか効果的である。「落とし子の戦い」は終始劣勢の北部軍が最終的に勝利をもぎとるところが肝で、悪党のラムジーを敗死させたのはカタルシスがあった。

特筆すべき悪党は、ジョフリー・バラシオン(ジャック・グリーソン)とラムジー・スノウだろう。ジョフリーは若いながらも暴君の資質を持っていて、特に婚約者だったサンサへの嫌がらせが酷い。周囲も手綱を握れていない状況である。そんな彼はシーズン4で毒殺されてしまう。普段の暴君ぶりも去ることながら、死に際の演技が神がかっていて素晴らしかった。また、ラムジーは救い難いサディストである。捕虜のシオン・グレイジョイ(アルフィー・アレン)を拷問し、妻のサンサを虐待している。あの調子ぶっこいた憎まれ顔が目に焼きついて離れなかった。さらに、厳密に悪党とは言い切れないが、ピーター・ベイリッシュ(エイダン・ギレン)も2人に準ずる存在だろう。彼は掴みどころのない策士であり、独自の思惑からサンサに近づいている。正直、策を弄しすぎていて彼の本音が分からなかったけれど、最終的に処刑されたのはスカッとした。

シーズン6までは登場人物の所在地がバラけていたから群像劇も効果的だった。視点人物が変わるたびにロケーションもがらりと変わって飽きさせない。ところが、登場人物を合流させたシーズン7からはその利点が消えてしまう。ただただ冗長なドラマが何の工夫もなく展開されるだけだった。

とはいえ、本作が金をかけて作れるドラマの上限値であることには間違いない。そのクオリティは、NHK大河ドラマが逆立ちしても勝てないレベルにまで達している。ここは無事に完結したことを言祝ぐべきだろう。特に原作者が畳めなかった風呂敷をドラマが畳んだ功績は大きい。金満ドラマの金満ぶりを堪能した。