海外文学読書録

書評と感想

『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021)

★★

建設会社の社長・大豆田とわ子(松たか子)には3度の離婚歴があった。1人目の元夫はレストランのオーナー・田中八作(松田龍平)。2人目の元夫はファッションカメラマン・佐藤鹿太郎(角田晃広)。3人目の元夫は弁護士・中村慎森(岡田将生)。とわ子の生活には何かと3人の元夫が入り込んでいる。また、とわ子には娘・唄(豊嶋花)がおり、親友・かごめ(市川実日子)がいた。

全10話。坂元裕二脚本。

ナレーションの多用やウィットに富んだ会話など、当初は斬新な語り口だと思いながら見ていたが、慣れてくるとテレビ屋的な臭みが鼻についてどうにも洒落臭い。面白いだろう? お洒落だろう? と画面から語りかけてくるようである。また、映像がテレビCMみたいにチープで、もし地上波でリアタイしてたら区別がつかなかっただろう。そして、例によって登場人物の戯画化も漫画みたいに極端である。どうにも安っぽい典型的な日本ドラマという感じだった。

登場人物の恋愛がことごとく失敗するのが本作の特徴だ。とわ子も3人の元夫も新たな道に進むかと思いきや破局する。そして、最終回では一周回って現状維持となり、3人の元夫が「大豆田とわ子最高!」と叫んで終幕する。とわ子は3人の元夫を疎んじているようで実は甘えており、彼らとの馴れ合いによって支えられていたのだ。本作の根底には「幸福の追求」がある。その際、一人で大丈夫か? 誰かに支えられるか? という選択肢が目の前に横たわっており、とわ子は両方を選んでいる。その反映が前述のラストだろう。とわ子はこれからも独身で生きていく。しかし、3人の元夫に支えられながら生きていく(スナックのママと常連客みたいな関係だ)。結婚は必ずしも幸せの必要条件ではなかった。第1話の時点では結婚して幸せになることを諦めていなかったのに、終わってみれば現状維持なのはとんだ茶番である。本作は近代家族の崩壊を象徴していると言えよう。

本作で重視されているのは、「思い出」や「好き」といった感情の問題だ。恋愛関係にせよ友人関係にせよ、思い出こそが一緒に過ごした証であり、たとえ相手が目の前から消えても思い出の中には存在する。人生の目的とはそういった良き思い出を作ることなのだ。また、結婚で重要なのは相手のことを好いていることである。「好き」こそが至上の価値であり、このときめきによって付き合ったり結婚したりする。自分の心に嘘をついてはいけないのだ。この辺は自由恋愛の理想が内面化されていて興味深い。結婚はわりと打算ですることが多いが、本作では「好き」が決め手になる。そして、だからこそ登場人物の恋愛は成就されない。みんな「好き」を重視して妥協しないから。その結果がとわ子を3人の元夫が囲む現状維持(=永遠のモラトリアム)なので、どうにも腑に落ちないところがある。

本作ではメタファーによる会話を取り入れたり、敢えて肝心な場面を見せなかったり、ドラマに深みをもたせる演出が散見される。それが視聴者への試し行為に見えて仕方がなかった。そういう知能検査みたいなことはやらなくてもいいと思う。テレビ屋の妙な意欲が透けて見えてかえって不自然だった。

若い頃の松たか子松本幸四郎(現・松本白鸚)にしか見えなかったが、今の松たか子はちゃんと松たか子に見えるから不思議だ。いい歳の取り方をしている。また、3人の元夫に恋する女性陣はみんな松たか子よりも見た目が落ちる女優をキャスティングしていて、露骨なルッキズムにどん引きした。