海外文学読書録

書評と感想

ロバート・アルドリッチ『ヴェラクルス』(1954/米)

★★★

1866年。メキシコ帝国では革命軍が蜂起していた。南軍の元大佐ベン・トレーン(ゲイリー・クーパー)とならず者ジョー・エリン(バート・ランカスター)が、伯爵夫人マリー・デュバル(デニーズ・ダーセル)の護衛をすることになる。マリーの馬車には300万の金貨が隠されていた。その金貨は国外に持ち出して皇帝の軍隊を雇うためのものだという。ベン、ジョー、マリーの3人が金貨を強奪して山分けにしようとする。

主要人物の緊張関係が良かった。表向きは金貨強奪のために協力するのだけど、かといってお互い気を許せるわけでもない。裏切りの可能性は常にあり、彼らの関係は危うい均衡で成り立っている。そういう微妙な間合いがとてもいい。ラストで均衡が崩れて対決するのも必然だった。

序盤から銃をバンバン撃つのが意外で、モノクロ時代からすると隔世の感がある。また、舞台がメキシコのせいかなかなかアクが強い。西部開拓時代なのに皇帝がいるし、体制側は皇帝の軍隊だし、襲ってくるのはベトコンみたいな革命軍である。町並みだけでなく、服装もエキゾチックだった。そこで主要人物の心理戦が展開されるのもアクの強さに一役買っていて、安心して見ていられるタイプのドラマではないと思う。常に危険と隣合わせの緊張感はだいぶあった。

西部劇はやはり男同士の意地の張り合いが見所で、ベンとジョーも張り合っている。とはいえ、銃の腕前も機知の冴えもベンのほうが上だった。ジョーはベンを出し抜こうとするも成功しない。それは序盤の馬を巡るやりとりからも分かる。男として、荒野を生き抜く力ではベンのほうに分があった。しかし、だからと言ってジョーの格が落ちるわけではない。彼は概ね飄々とした態度であり、ここぞというとき白い歯を見せて笑う。ジョーはジョーで底知れぬ雰囲気があった。ベンがいなければ一番になれた男である。

革命軍がインディアンみたいなポジションにいて、ゲリラ的に馬車を襲撃してくる。また、局地的に戦力を集中させてベンたちを包囲することまでした。外見は民族的な衣装で統一しており、そこもインディアンを彷彿とさせる。皇帝軍と革命軍は、騎兵隊とインディアンの代替だろう。旧来の構造を異国を舞台に換骨奪胎しているところが面白かった。

皇帝側に与しているようで最後は皇帝側を裏切る。ベンたちはそういう算段だった。しかし、革命軍によって金貨は人民のものだという「正義」が浮上してくる。つまり、私有することは人民の金を掠め取ることなのだ。こういうロジックを持ち込んでくるところが意外で、このロジックがベンとジョーの対決にまで昇華されるのが上手かった。