★★★
パリ。ポーランド人のカロル(ズビグニェフ・ザマホフスキ)が妻のドミニク(ジュリー・デルピー)から離婚裁判を起こされている。理由はカロルの性的不能だった。地下鉄の構内でポーランド人のミコワイ(ヤヌシュ・ガヨス)と出会ったドミニクは、不法な手段で故郷に帰る。そこで両替屋の用心棒になるのだった。
男性性の喪失から男性性の回復までを描いた男性性の寓話である。
美容師のカロルはコンテストで優勝したことがあり、その縁でドミニクと結婚したようだ。ところが、性的不能のせいで離婚を突きつけられてしまった。ドミニクはまだ若く、そして美人である。こんな美人を前にしても勃起することができない。性的不能は男性の沽券に関わる。這々の体でフランスから逃げ出したカロルは、故郷ポーランドで用心棒の仕事に就く。用心棒とはまた男性的な職業だが、しかし、彼に与えられた拳銃は弾なしだった。一度発砲する機会があるも、それは空砲である。この時点で彼の男性性は回復していない。故郷でも女っ気のない生活を送ることになる。
ところが、カロルの人生に転機が訪れる。反社の会話を盗み聞きして土地取引の情報を手に入れたのだ。このチャンスを掴んでカロルは大金持ちになる。本件を見るだけでも彼はただものではない。反社に脅されてもきっちり交渉して取引を成立させている。カロルは意外と優秀だった。彼は機転を利かせてミコワイの命を救っているし、ドミニクへの復讐もきっちり果たしている。どれも無能な人間では達成できないわけで、カロルは本来的にデキる男なのだろう。巨万の富を手に入れたカロルは見事男性性を取り戻している。
トリコロールの白は平等を表すという。男性が若くて美しい女性と平等になるには、金持ちになるしかなかった。カロルは金持ちになることでようやくドミニクと対等になれたのである。そして、金持ちになったカロルは男性機能が回復し、ドミニクをオーガニズムに導くこともした。男の価値は金、女の価値は若さ。これが一般的な恋愛の等式である。女の若さと並ぶために、男はガンガン稼ぐ必要がある。男性とは稼ぐ性なのだ。冴えない美容師からやり手の実業家へ。資本主義社会の男性は己の能力を発揮し、金持ちになることでようやく男性として認められる。今や腕っぷしが強ければいいという時代ではない。本作は男性性の本質をよく捉えている。
カロルがドミニクを覗き見するシーンが2回ある。1回目は序盤、未練たらたらのカロルがドミニクの部屋を覗いたら他の男とベッドインしていた。これは男性性の喪失がもたらした悲劇である。そして2回目は終盤、外から収容所のドミニクを覗いている。そこに他の男はいない。いわば籠の中の鳥であり、カロルがドミニクを捕らえたことを示している。こうしてドミニクを独占することができたのだ。若くて美しい女を囲うことは男子の本懐である。カロルはドミニクを籠の中の鳥にすることで、男性の沽券を取り戻している。
というわけで、よくできた男性性の寓話だった。