海外文学読書録

書評と感想

アンドリュー・V・マクラグレン『ワイルド・ギース』(1978/英)

★★★

傭兵隊長のアレン・フォークナー大佐(リチャード・バートン)がイギリス人のマターソン卿(スチュワート・グレンジャー)から依頼を受ける。アフリカ某国に捕らわれたリンバニ大統領(ウィンストン・ヌショナ)を救出せよ、と。フォークナーは作戦参謀のレイファー・ジャンダース(リチャード・ハリス)、パイロットのショーン・フィン(ロジャー・ムーア)、ボウガン使いのピーター・カーツィー(ハーディ・クリューガー)ら50人の傭兵を集めてリンバニ救出作戦を実行する。

お爺ちゃんたちがきつい任務を頑張ってこなしていて、高齢化社会の今だからこそ刺さる映画だった。一億総活躍社会とはこういうことなのだろう。本来だったら若者が担う汚れ仕事を老人が担う。感動で涙が出てきた。

アフリカでなら好き勝手していいという欧米諸国の合意があると思う。特にイギリスはアフリカの一部を植民地として支配していた。だから介入するのは習い性である。今回の任務はお金持ちの私利私欲が発端であり、大統領の救出は人道上ではなく経済上の理由である。有力者といえども正規軍は動かせない。だから傭兵を送り込む。このようにイギリス人のでたらめぶりが背景にあるところが面白い。

当初、任務は順調だった。基地を無力化してあっさり大統領を救出した。その手際の良さに感心したものの、撤退戦が地獄だった。土壇場でマターソン卿が裏切って傭兵たちは置き去りにされたのである。本作の本番はここからで、狩られる側になってからの困難が面白い。小型飛行機に銃撃されてあわや全滅というところまで追い詰められているし(しかも、たった一機にである!)、土人兵がわらわらと湧いてきて傭兵たちに襲いかかってくる。その様子はまさにイギリス版『ブラックホーク・ダウン』といったところ。土人兵はあまり練度は高くないものの、とにかく数が多いので傭兵たちも苦労することになる。一人、また一人と傭兵たちが散っていく様は涙なしには見れなかった。

もう少しで脱出できる! というところで死んでしまうのがいかにも人生である。物事はそう都合よく運ばない。しばしばこちらの希望を打ち砕いてくる。また、戦力の大半を失ってまで救出した大統領が機内で死んでしまうところも人生である。我々の世界は苦労に見合った結果がもたらされるとは限らない。運命の女神はしばしばこちらの横っ面を引っ叩いてくる。ハッピーエンドなんてまやかしなのだ。特に傭兵はギャングと同じイリーガルな集団だから、少しの行き違いで窮地に追い込まれる。ハイリスク・ハイリターンの代表みたいな職業だ。そんな汚れ仕事を老人が担っている。高齢化社会の現実を目の当たりにして涙が出てきた。

傭兵たちは基地を制圧する際、毒ガスを使っている。そんなもん使っていいのかと驚いたが、どうやら当時は合法だったらしい。化学兵器禁止条約は1997年に発効された。禁止になったのは意外と最近のようである。

一番印象に残っているのがパラシュートで降下するシーン。大人数で降下していて実に壮観だった。これから作戦が始まるのだというわくわく感もある。また、終わり方も奇麗で良かった。あそこで子供を出してくるのは周到である。「父さんの話をしよう」なんて最高のセリフだろう。子供を使って叙情的に締めるのは予想外だった。