海外文学読書録

書評と感想

ドン・テイラー『ファイナル・カウントダウン』(1980/米)

★★

1980年。ハワイ沖を航行する原子力空母ニミッツはイーランド大佐(カーク・ダグラス)が艦長を務めていた。ニミッツには国防省からラスキー(マーティン・シーン)が派遣されている。やがて天候が悪化、ニミッツは嵐に巻き込まれ、1941年12月6日にタイムスリップする。その日は真珠湾攻撃の前日だった。付近をゼロ戦が2機飛んでおり……。

しょうもない寸止め映画だった。やると見せかけて結局やらない。思ったよりも小さくまとまっている。

2つある山場がどちらもしょぼい。

1つ目は日本軍の捕虜(スーン=テック・オー)。特に拘束もせず尋問していたら隙を突かれてライフルを奪われてしまった。お前ら本当に軍人か? 何じゃそりゃあって感じである。船員が2人射殺されたし、確かに危機ではあるが、どうせ人海戦術で鎮圧できるのだから大したことない。それよりも屋内劇で済まそうとするしょぼさにがっかりした。

2つ目は上院議員チャールズ・ダーニング)の救出。これがまた有力な政治家で、史実では謎の失踪を遂げた人物だった。もし失踪しなかったら、1944年の大統領選でトルーマンを制して大統領になっていたほどだという。そんな重要人物を救出してしまった。そのせいでタイムパラドックスが起きるかもしれない。これは確かに懸案事項ではある。ラスキーたちの方針としてはなるべく歴史は変えたくない。殺すわけにはいかないし、かといって生かしておくと不都合だ。しょぼいことはしょぼいけど、理に適った危機ではある。だから1つ目よりはマシだった。

とにかくタイムパラドックスを起こさない。そういう制約があるからスケールが小さくなる。上院議員の顛末は面白かったけど、最大の危機である真珠湾攻撃への対処は拍子抜けだった。やると見せかけて結局やらないのである。あれだけ最新鋭の兵器を揃えておいていったい何のつもりなのか。おかげでだいぶ盛り下がってしまった。

原子力空母ニミッツとF14戦闘機はなかなか迫力があって、ミリオタではない僕でも興奮するものがあった。やはり人殺しの道具には機能的な美しさがある。死と近接した道具ほど魅力的なものはない。日本も台湾有事に備えて原子力空母を所持しておくべきではないか。海洋国家のくせにヘリ空母しかないのは物足りない。アメリカ軍の充実ぶりを見ると、ついそんなことを考えてしまう。

ゼロ戦の撃墜シーンはどうやって撮ったのだろう? 模型には見えなかったし、ちゃんと実物を落としたように見える。あと、F14の空中給油のシーンが良かった。飛んでいる最中によくあんなことできるなと感心する。スピードが少しでもズレたら事故りそう。また、海難救助の様子が見れたのも収穫だった。海上に漂ってる人はああやって助けるのかという感じ。思ったよりも体を張っている。

とはいえ、やはり寸止めは許せない。期待外れにも程がある。