海外文学読書録

書評と感想

イ・ジョンボム『アジョシ』(2010/韓国)

★★★

質屋を営むチャ・テシク(ウォンビン)の元には、隣家に住む少女チョン・ソミ(キム・セロン)がよく来ていた。テシクは少女から「アジョシ(おじさん)」と呼ばれている。一方、少女の母親はヤク中で、あるとき麻薬絡みのトラブルで母娘共々犯罪組織に誘拐されてしまう。テシクは元特殊部隊の腕前を生かして2人を助けようとする。

質屋は世を忍ぶ仮の姿で、実は凄腕の元戦闘員だった。こういう設定が多用されるのはそこにロマンがあるからだろう。僕も若い頃は夢想していたからね。うだつの上がらない今の自分は偽りの姿で、本当はバリバリのヒーローなのだ、と。眠れない夜によくその手の物語を頭に描いていた。それはさておき、こういう子供染みた妄想を何の衒いもなく、しかもイケメン俳優を使って映像化しているところが本作の魅力だろう。主人公がめちゃくちゃ強いところが厨二的な願望に拍車をかけていて、やはりアクション映画はこうでなくちゃと思う。ブルース・リーアーノルド・シュワルツェネッガーの映画が人気なのも、彼らが無敵の強さを見せつけているからだし。素手で戦わせても良し。ナイフを使っても良し。銃を撃たせても良し。本作の主人公は一人で多数を相手に様々なアクションを繰り広げていて、超人が活躍する映画は爽快だと思う。

その反面、本作は暴力描写がえげつなくて、臓器を抜かれた女性の死体やガラスの容器に保管された目玉など、一見してぎょっとするような映像が多数ある。そもそも全体的に雰囲気が不穏なのは、麻薬密売の他に臓器売買が絡んでいるからだ。劇中には中国人マフィアやタイ人傭兵といった胡乱な人々が入り乱れて悪事を成している。こういうアジアンテイストは香港や韓国などのアジア映画でしか見れないから貴重だ。血で血を洗う凄惨な暴力をこれでもかと繰り出していて、規制で雁字搦めのハリウッド映画と上手く住み分けができている。

誘拐された子供たちが麻薬工場でマスクもつけずに働いているシーンはインパクトがあった。青みがかった映像が実にノワールらしい。それと、警察がテシクに成りすましてホワイトハウスに脅迫メールを送るところが可笑しかった。それで彼に関する機密ファイルのロックが解除されるのだからふざけている。当時はバラク・オバマが大統領だった。日本も韓国もアメリカの影響からは逃れられない。まったく嫌な世界である。