海外文学読書録

書評と感想

『MIU404』(2020)

★★

2019年。働き方改革によって刑事部・機動捜査隊(機捜)に第4機動捜査隊(4機捜)が新設される。隊長は桔梗ゆづる(麻生久美子)。「相棒殺し」の異名を持つ志摩一未(星野源)は奥多摩の伊吹藍(綾野剛)とコンビを組み、ベテランの陣馬耕平(橋本じゅん)は新人の九重世人(岡田健史)とコンビを組むことになった。機捜は初動捜査を主な任務にしており、中でも4機捜は他隊の増援を担っている。4機捜は様々な事件を担当することに。

全11話。野木亜紀子脚本。

アメリカのドラマに比べると日本のドラマは湿っぽくてそこが苦手かもしれない。実は本作と並行して『デクスター』を観ていたのだけど、『デクスター』は連続殺人犯を扱いながらも徹頭徹尾乾いていて好感が持てた。

「誰と出会うかによってその人の人生が決まる」という運命論が本作の中核にあって、運命のいたずらによって犯罪の道に進んでしまった人たちが描かれる。我々の進む道には犯罪に通じる障害がたくさんある。回避できているうちはいいものの、時にはそれに躓くこともあり、そのせいで取り返しのつかない立場に追い込まれてしてまう。犯罪者も好きで罪を犯しているわけではないのだ。本作はそういった訳ありの犯罪者に焦点を当てているせいか、だいたいのエピソードが湿っぽく、役者の感情過多な演技と相俟って胃もたれしそうになる。

とはいえ、1話完結式のエピソードはどれも軽快なエンタメで飽きさせない。何より中身がスカスカなので観ていて疲れないところがいい。一仕事終えてビールを飲みながら気軽に観るドラマとしては悪くないだろう。日本人は生活に追われているからあまり複雑なドラマは望まれていないのだ。製作者もそういう意識で作っているから逆立ちしてもアメリカのドラマに勝てない。それどころか、勝とうとさえしてない。VOD時代においてはその軽さがどうにも引っ掛かる。

技能実習生問題を扱った第5話、志摩の過去に迫った第6話が全体のピークだろう。特に前者は尖っていて、NHKではとても放送できなさそうな反体制的なメッセージが込められている。もちろん、日々ニュースを見ている我々ははっきりと認識しているわけだ。「ジャパニーズドリームは嘘だ」ということに。しかし、日本社会はもはや技能実習生がいないと回らなくなってしまった。我々はベトナム人を騙してでも豊かな暮らしを維持したいのだ。政府だってそんな庶民の心を知っているから、技能実習制度という事実上の奴隷制度を廃止しないでいる。ベトナム人の人権と引き換えに快適な生活を送る日本人。その矛盾を突いたシナリオは民放ドラマだからこそできるものだった。

ラスボスの久住(菅田将暉)はメフィストフェレス的な虚無主義者だ。何のために犯罪をしているのか、言い換えれば、欲望の在り処が見えない天真爛漫な悪党である。それゆえに非実在的というか、漫画っぽさが際立っているのだけど、そういう理解不能な人物がラスト、「お前たちの物語にはならない」と理解を拒む態度をとったのが良かった。ドラマとは往々にしてパズルのピースがはまって視聴者も溜飲を下げるものなのに、久住だけは浮いたまま終幕を迎えている。「誰と出会うかによってその人の人生が決まる」という運命論の「運命」に当たるのが久住だ。彼は庶民を犯罪の道に突き落とす障害として、あるいは刑事たちに試練を課す装置として、その機能をまっとうしている。

本作ではSNSが重要な役割を果たしている。しかし、「インターネットにおける集合知は衆愚と紙一重」と言いたげな使われ方だ。その認識はまったく正しいけれど、テレビ屋にだけは言われたくないという思いがある。なぜなら大衆を愚かにしてきた第一の戦犯はテレビなのだから。テレビ屋はその責任をとるべきではないか。テレビがオワコンになった昨今、テレビ屋たちが頭を垂れてテレビの総括をする時が来ている。