海外文学読書録

書評と感想

『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』(1999-2007)

★★★★

ニュージャージー州。豪邸で暮らすトニー・ソプラノ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)はマフィアのボスで、ソプラノ・ファミリーを率いていた。しかし、彼は仕事でも家庭でも問題を抱えており、ある日パニック発作で倒れてしまう。以降、精神科医のセラピーを受けることになった。

HBO作品。全6シリーズ86話。

マフィアのボスがセラピーを受けるという設定は『アナライズ・ミー』【Amazon】と同じだけど、両者は同年公開なのでたぶん偶然だろう。マフィアが織りなす非情な世界と、私的な家庭劇を地続きにしたのが本作の面白いところである。セラピーはそれらを昇華させる役割を担っているのだ。このセラピー、当初はすぐ止めるだろうと高をくくっていたら、シーズン6の終盤まで続けているのだから徹底している。一発芸で終わらない重要なコンセプトになっていた。

マフィア間の激しい抗争は終盤までなく、だいたいは身内の揉め事を暴力で解決していくことになる。各シーズンごとに最低1人、主要人物が殺されるのが見所だろう。マフィアはみな血の気が多いうえ、独立心が強いせいかボスの意に反することをしょっちゅうしている。だから人間関係でトラブルが起こりがちだ。トニーはその調整を行うのだけど、これがなかなか上手く行かない。おまけにRICO法によって些細な犯罪でもバレたら長期刑が待っている。そんな気苦労がストレスになっているのか、トニーはいつまで経ってもセラピーを止められないでいる。

プライベートも問題含みで、娘や息子がやんちゃをしてよく衝突している。トニーは何人も愛人を取っ替え引っ替えしているため、妻とも喧嘩しがちだ。形式的には古き良き家父長制だけど、すべてが家長の思い通りにいくわけではない。仕事の部下と同じく、家族も我が強いのである。この辺はカタギの家庭と大差なくて、世のお父さんらしく心労の原因になっている。トニーは仕事と家庭、双方の問題に対処しなければならない。

そんなトニーにとってセラピーは癒やしの場で、担当の女精神科医とは概ね良好な関係を結んでいる。途中でセラピーを中断したり、精神科医に恋愛感情を抱いたり、多少の起伏はあったものの、物語を通してオアシスであり続けた。セラピーのシーンは登場人物の心理の解説にもなっているので、ある意味ユーザーフレンドリーな設定と言えるだろう。人を殺すことに躊躇いがないマフィアにも、人間らしい部分があるのだ。この暴力性と人間性の綱引きが、本作の魅力のひとつになっている。

ラストがどうにも消化不良で、シーズン6まで続けてそりゃないよと思った。ただ、それ以外はほぼ満足で、非情な暴力の世界を堪能した。『ゴッドファーザー』、『グッドフェローズ』【Amazon】と来て、本作があるわけだ。ドラマは見終わってもマフィアへの興味は尽きない。これから関連書籍を読んでいこうと思う。