海外文学読書録

書評と感想

フランシス・フォード・コッポラ『ゴッドファーザー』(1972/米)

★★★★★

1945年。ヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)はイタリア系マフィアのボスで、ニューヨーク五大ファミリーの一角を成していた。邸宅では娘(タリア・シャイア)の結婚式が盛大に行われている。式には三男のマイケル(アル・パチーノ)も出席。マイケルはカタギであるものの、戦争の英雄として一族の誇りになっていた。やがて麻薬取引を巡ってトラブルが起こり、長男のソニージェームズ・カーン)が暗殺される。

原作はマリオ・プーゾの同名小説【Amazon】。

『ザ・ソプラノズ』を観た後だと物足りなく感じるけれど、やはりマフィア映画の原点として評価せざるを得ない。何といっても、イタリア系の俳優が雁首揃えてるだけでも迫力がある。本作は抗争の部分が大味とはいえ、麻薬取引の是非を中心とした時代の変遷を意識させつつ、マイケルがいかにして偉大な父を乗り越えるのか、そういう興味を持たせる話作りが良かった。

ヴィトーが徹底して麻薬取引をタブー視しているところが眩しくて、マフィアのくせにいい人に見えてしまうのだから罪深い。彼は娘の結婚式の裏で復讐の代行を引き受けており、この部分からして義理人情に厚い人物ということが分かる。地域共同体の長として、法で裁けない悪を懲らしめようというのだ。のっけから必要悪としてのマフィア像が提示されているところが興味深い。こういったマフィア像は『ジョジョの奇妙な冒険』にも継承されていて、第5部【Amazon】では正義感の強いマフィアたちが悪辣なボスに対して謀反を起こしていた。裏社会を描きつつも、こちら側にある程度の正当性を持たせているところがポイントだろう。だから血生臭い暴力が描かれても大枠では感情移入して見ることができる。本作はマフィアを必要悪として捉えたところが成功の一因だと思う。

久しぶりに観たので、ソニージェームズ・カーン)とアポロニア(シモネッタ・ステファネッリ)があんな風に死ぬとは予想外だった。すっかり忘れていた。敵の魔の手が知らないうちに伸びて突然殺されるので、率直に言ってかなり衝撃的だった。劇中ではたくさんの人が死んでいくけれど、インパクトという意味ではこの2人が双璧を成している。特にアポロニアは死ぬようなポジジョンではなかったので尚更である。

「権力のある者には責任がある」と自ら言ってる通り、マイケルはボスの座を引き継いでからはその責任を果たしていく。洗礼式の裏で殺戮を進めていくところは出来すぎだけど、そこから仕事と家庭の線引きが示されるラストが秀逸だ。女たちはドアの向こうに締め出されるのである。マフィアの世界は男の世界なのだ。そういう世界では家父長制こそがもっとも合理的で、だからこそカタギの僕はマフィアに文化遺産的な価値を見出してしまう。