海外文学読書録

書評と感想

ローラ・ポイトラス『シチズンフォー スノーデンの暴露』(2014/米=独)

★★★

映画監督ローラ・ポイトラスの元に「シチズンフォー」と名乗る人物から暗号化されたメールが届く。それはNSA国家安全保障局)による違法な情報収集を暴露するものだった。ローラはジャーナリストのグレン・グリーンウォルドと共に香港へ飛び、ホテルの一室で告発者のエドワード・スノーデンにインタビューする。

スノーデン本人が出演しているドキュメンタリー映画。2016年にはオリヴァー・ストーン監督の『スノーデン』が公開されている。

「常に監視されている」というのは統合失調症の妄想でよくあるけれど、それが現実に起こっていたことが衝撃的で、僕はこの事件以来ネットに対する心構えを改めた。Googleでの検索も、Amazonでの買い物も、Skypeでの通話も、すべて政府機関に把握されているのものだと覚悟した。自分は法に触れるようなことなどしないから、と割り切るようになったのだ。確かに薄気味悪いし、よくよく考えたら気分も悪いけれど、今の時代にインターネットを使わないという選択肢はないので、嫌でも受け入れるしかない。ただ、情報発信にはいくぶん気をつけるようになった。これ以降、ネットで自分語りをする際は意識してフェイクを入れるようになったし、大切な話は通話やメールではなく本人と直接会って話すようになった。ネットでは常に見られることを意識している。個人での自衛には限界があるにしても、ある程度差し出す情報はコントロールしたい。そう思いながらネットに向き合っている。

現代社会において、自由と安全はバーターの関係にあるようだ。ここで言う自由とはすなわちプライバシーのことであり、これを守ろうとすると安全が脅かされる。一方、安全を優先すると今度はプライバシーが脅かされる。分かりやすい例を挙げると、町中に防犯カメラを設置することでプライバシーがなくなる反面、犯罪の抑止力はあがって社会はより安全になる。逆に、防犯カメラを設置しなかったらプライバシーは守られるものの、今度は社会から安全が失われる。このジレンマは確か2005年頃に日本で指摘され、東浩紀を始めとするネット論客たちが盛んに議論していた。ちょうどSNSが流行する前だ。町中の防犯カメラの数を増やそうと日本社会が躍起になっていた時期である。あれからおよそ15年が経ち、今ではそこかしこで防犯カメラが我々を見張るようになった。これに映らずに外出することは不可能になった。実に恐ろしい世の中である。

本作で知ってぎょっとしたのだけど、ネットで10文字のパスワードを設定してもNSAなら2日で解読できるらしい。いわゆる総当り方式で。たいていの人はSNSやメールのパスワードをこれくらいの文字数で管理してるのではなかろうか。また、IP電話は遠隔起動によって、通話してないときでも盗聴器として使えるという。ここまで来ると、どうすればプライバシーを守れるのかまったく分からない。実に恐ろしい世の中である。