海外文学読書録

書評と感想

ドゥッチョ・テッサリ『ビッグ・ガン』(1973/伊=仏)

★★★

マフィアの殺し屋トニー・アルゼンタ(アラン・ドロン)が、幼い息子のことを考えて稼業から引退しようとする。幹部のグスト(リチャード・コンテ)にその意向を伝えるも許してもらえない。それどころか、トニーは組織から狙われることに。組織の手違いで妻子の乗った車が爆発するのだった。トニーは復讐を決意する。

本作はラストシーンがクールなのだが、これはアラン・ドロンがクールなのではなく、デンニーノ役のジャンカルロ・スブラジアがクールなので何とも言い難い。最後の最後に見せ場を持っていく。デンニーノみたいな役割が一番おいしいと思う。

殺人というのは攻撃よりも防御のほうが難易度が高い。仕掛けるほうは不意打ちだし、時と場所を選べる。それに対し、仕掛けられるほうはいつどこで相手が仕掛けてくるか分からない。四六時中緊張を強いられる。マフィアの幹部は人に会うのが仕事だからそのぶん隙もできやすい。トニーが幹部に忍び寄って次々と仕留めていく。こういったシーンはさほど荒唐無稽には見えなかった。

マフィアの幹部もトニーを始末しようと部下に襲撃させる。しかし、これが大味すぎるのだ。どれも衆人環視のもとで派手に行われる。動きが派手だからトニーも危機を察知しやすい。頭数は揃えているのに殺害に成功しないのは計画が杜撰だからで、こいつら本当にマフィアなのかと呆れた。敵が無能ゆえに相対的にトニーの株が上がっている。これはちょっと良くない点だった。

女性への暴行シーンが2箇所あるのだけど、どちらもえげつなかった。男女平等パンチどころの話ではない。血を流し、痣を作りの痛ましい暴行が繰り広げられている。1回目はDV(を偽装した暴力)で、2回目は集団リンチである。外国映画とはいえ、女性に対してここまで生々しい暴力を振るうのも珍しい。現代だったらアウトではなかろうか。昔の映画はぶっ飛んでるなあと怖気を震った。フェミニストが見たらガチ切れするレベルだし、フェミニストではない僕が見てもぎょっとする。

トニーは優秀な殺し屋ではあるものの、生き延びているのは運の要素が大きい。というのも、意外と無防備なところがあるのだ。屋内で黄昏れている最中に呼び鈴が鳴る。トニーは拳銃を構えてドアの前に行き、誰が来たのか確認する。味方だったらドアを開ける。この動きは一見すると慎重そうだが、敵がドア越しに撃ってきたらアウトである。ドアは薄っぺらい木材でできているから。明らかに位置取りが悪い。前述の通り、殺人というのは攻撃よりも防御のほうが難易度が高いわけで、ラストがああなったのも仕方のないことだと言える。

劇中に葬式と結婚式を出すのはマフィア映画の伝統だろうか。有名な『ゴッドファーザー』は本作の前年に公開である。まさか娘の結婚式にああいうことをやるとは意外だった。あれはおそらくマフィアの仁義に反するはず。「常識」を逆手に取ったからこそ成功したのだろう。なりふり構わない人間ほど怖いものはない。