海外文学読書録

書評と感想

ロベール・アンリコ『冒険者たち』(1967/仏=伊)

★★★★

自動車エンジニアのローラン(リノ・ヴァンチュラ)とパイロットのマヌー(アラン・ドロン)は友人同士。そこへ前衛彫刻家のレティシアジョアンナ・シムカス)がやってくる。夢を追う3人は時と共に友情を深めるだった。やがて彼らは職業上の致命的な失敗をする。吹っ切れた3人は、海に沈んだ宝を探しにコンゴへ行くのだった。

原作は ジョゼ・ジョヴァンニ『生き残った者の掟』【Amazon】。

美しくもほろ苦い映画だった。彼らの冒険的な生き方には憧れるものの、しかしそれゆえに大切なものを失ってしまうのだから複雑だ。残ったのは莫大な金銭だけ。人生とはままならないものだと痛感する。

毎日自宅と会社を往復する生活よりも、こうやって気が向くまま夢を追いかける人生のほうが楽しそうだと思った。でも、それは生活の安定を手放すことにもなる。人生をエンジョイするにはそれなりの覚悟が必要なのだ。こういう曖昧な生活って実は現代日本にも存在していて、たとえば、シェアハウス界隈なんかがそれに当てはまる。彼らは基本的にアルバイトやリモートワークでその日暮らし。必要以上の金は溜め込まず、仲間たちとワイワイガヤガヤしている。「隣の芝生は青い」とは言うけれど、僕も一度はそういう青春を体験したかった。気の合う仲間と社会の隙間で自由に生きる的なやつ。レールに乗っかるだけが人生ではないし、莫大な富が必ずしも幸福をもたらすわけでもない。しかし、頭では分かっているものの、いざ行動に移すとなると躊躇してしまう。安定した生活を手放すことの恐怖。そこが人生の難しいところだ。

男2人に女1人の関係だと、通常は女の取り合いになってしまう。ところが、本作はそうなる手前の宙吊り状態に留まっていた。絶妙なバランスによって成り立つ関係だからこそ、それが思わぬ形で崩れるところに喪失感をおぼえる。本当の宝物はダイヤモンドや貨幣ではない。かけがえのない友人なのだ。こういう素朴な価値観を嫌味なく見せるところが本作の素晴らしいところで、世の中には金に代え難いものがあることを力強く示している。特にマヌーとローランが子供に1億フランを託すシーンなんて美しさの極みではないか。俗人だったら2人で分け合うけれど、それを敢えて縁のある子供に渡す。彼らのような筋の通し方はなかなかできない。

要塞島を空撮で捉えるラストが最高で、映画史の中でも最良の空撮だった。