海外文学読書録

書評と感想

2017-01-01から1年間の記事一覧

イスマイル・カダレ『夢宮殿』(1981)

夢宮殿 (創元ライブラリ) 作者:イスマイル・カダレ 東京創元社 Amazon ★★★ オスマン・トルコ帝国。アルバニアの名門出のマルク=アレムは、秘密機関の<夢宮殿>に奉職することになる。そこでは国民たちの夢を収集・分析し、帝国の将来に関わる重大な出来事…

キャシー・アッカー『ドン・キホーテ』(1986)

ドン・キホーテ (WRITERS X) 作者:キャシー アッカー 白水社 Amazon ★★ 中絶手術を目前にして発狂した女はドン・キホーテになり、犬になった聖シメオンをお供に奇妙な冒険をする。ドン・キホーテは66歳、聖シメオンは44歳。彼女は愛を求めながらも様々な社会…

ジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』(1985)

オレンジだけが果物じゃない (白水Uブックス176) 作者:ジャネット ウィンターソン 白水社 Amazon ★★★ ジャネットは赤ん坊の頃、狂信的なキリスト教徒の女の養子になり、以来伝道師になるべく厳しい宗教教育を叩き込まれた。キリスト教の教えを信じ込んだジャ…

ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ『コスモス』(1965)

コスモス―他 (東欧の文学) 作者:ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ 恒文社 Amazon ★★★ 部屋探しをしていた「ぼく」とフクスは、町外れの一軒家に間借りすべくその家に向かう。道中、2人は首くりりのスズメを発見するのだった。その後、宿泊先の部屋の天井に矢印…

フランソワ・ラブレー『第四の書』(1552)

ガルガンチュアとパンタグリュエル〈4〉第四の書 (ちくま文庫) 作者:フランソワ ラブレー 筑摩書房 Amazon ★★★ 聖なる酒びんのご宣託を受けるため、パンタグリュエルと愉快な仲間たちが航海する。道中では、島民全員が親類縁者の鼻欠け島や、殴られることで…

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『アメリカーナ』(2013)

アメリカーナ 上 (河出文庫) 作者:アディーチェ,チママンダ・ンゴズィ 発売日: 2019/12/06 メディア: 文庫 ★★★★★ イボ人のイフェメルはナイジェリアからアメリカに渡って13年が経っていた。帰郷する予定の彼女はヘアサロンで髪を結ってもらい、その最中に過…

フランソワ・ラブレー『第三の書』(1546)

第三の書 ガルガンチュアとパンタグリュエル3 (ちくま文庫) 作者:フランソワ・ラブレー 筑摩書房 Amazon ★★★ 領主になったパニュルジュは財産を使い果たした後、結婚しようと思い立つ。しかし、彼はあちこちに相談に行くも、コキュ(寝取られ男)になること…

イサク・ディーネセン『アフリカの日々』(1937)

アフリカの日々 (河出文庫) 作者:イサク・ディネセン 発売日: 2018/08/04 メディア: 文庫 ★★★★ アフリカ滞在の記録。1914年にデンマークから移住した著者は、以後17年にわたって広大な農園でコーヒー栽培をする。人々の営み、動物、自然。最後は経営が立ち行…

エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』(1952)

やし酒飲み (岩波文庫) 作者:エイモス・チュツオーラ 岩波書店 Amazon ★★★ やし酒飲みの「わたし」は仲間と一緒に毎日大量のやし酒を飲んでいた。ところが、ある日やし酒造りが死んでやし酒が飲めなくなってしまう。ジュジュを身にまとった「わたし」は、死…

フランソワ・ラブレー『パンタグリュエル』(1532)

パンタグリュエル ガルガンチュアとパンタグリュエル2 (ちくま文庫) 作者:フランソワ・ラブレー 筑摩書房 Amazon ★★★★ 巨人王ガルガンチュアの息子パンタグリュエルは、長じてからパリへ留学する。そこで従者のパニュルジュが一騒動を起こした後、ディプソ…

デイヴィッド・ロッジ『小さな世界』(1984)

小さな世界―アカデミック・ロマンス 作者:デイヴィッド ロッジ 白水社 Amazon ★★★ 大学講師のパース・マガリグルは、T・S・エリオットの詩をテーマにした修士論文を完成させたばかり。その彼が学会で出会ったアンジェリカという女性に恋をする。一方、教授の…

イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』(1960)

不在の騎士 (白水Uブックス) 作者:イタロ・カルヴィーノ 白水社 Amazon ★★★ 中世ヨーロッパ。シャルルマーニュ大帝は異教徒のサラセン軍と戦争していた。皇帝の下に集った騎士アジルールフォは、白い鎧を身に着けていたが、中身は空洞の「不在の騎士」として…

リチャード・パワーズ『エコー・メイカー』(2006)

エコー・メイカー 作者:リチャード パワーズ 新潮社 Amazon ★★★ ネブラスカ州。マークがトラックを運転中に事故に遭って意識不明の重体になる。姉のカリンが病院に駆けつけて彼を看病するも、意識を取り戻したマークは彼女のことを偽物だと思い込んでいた。…

ウンベルト・エーコ『前日島』(1994)

前日島 作者:ウンベルト エーコ 文藝春秋 Amazon ★★★★ 1643年。小貴族のロベルト・ド・ラ・グリーヴは、戸板一枚で海を漂流して一隻の船にたどり着く。見たところそこは無人のようだった。船からは島が見えるものの、ロベルトは泳げないので渡ることができな…

ジュリアン・バーンズ『人生の段階』(2013)

人生の段階 (新潮クレスト・ブックス) 作者:バーンズ,ジュリアン 新潮社 Amazon ★★★ (1) 19世紀。軍人フレッド・バーナビーと女優サラ・ベルナールは気球で空を飛んだ。(2) フレッド・バーナビーがサラ・ベルナールに結婚を申し込む。(3) 作家の「私」ことジ…

キャサリン・ダン『異形の愛』(1989)

異形の愛 作者:キャサリン・ダン 河出書房新社 Amazon ★★★★ 小人で禿のオリンピア・ビネウスキは、サーカスを運営する両親によって奇形になるよう生み出された。他にも、兄はアザラシ少年、姉はシャム双子、弟は超能力者に生まれついている。サーカスでは兄…

マヌエル・プイグ『天使の恥部』(1979)

天使の恥部 (白水Uブックス) 作者:マヌエル・プイグ 白水社 Amazon ★★★★ (1) 1936年。映画女優の女は、夫によって電流を流した鉄柵のなかに閉じ込められていた。彼女は死者との密約により、30歳になったら他人の心が読めるようになるという。女はスパイの男…

フランソワ・ラブレー『ガルガンチュア』(1534)

ガルガンチュア ガルガンチュアとパンタグリュエル1 (ちくま文庫) 作者:フランソワ・ラブレー 筑摩書房 Amazon ★★★★ 巨人族の王家に生まれたガルガンチュアは、長じてからパリに留学する。そこへ村人たちの些細ないざこざから祖国が攻め込まれて戦争になっ…

ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ『トランス=アトランティック』(1953)

トランス=アトランティック (文学の冒険シリーズ) 作者:ヴィトルド ゴンブローヴィッチ 国書刊行会 Amazon ★★★ 1939年8月。ポーランドからアルゼンチンに渡航したゴンブローヴィッチは、遠い祖国で戦争が始まったことを聞く。アルゼンチンに残ることにした彼…

コラム・マッキャン『世界を回せ』(2009)

世界を回せ 上 作者:コラム・マッキャン 河出書房新社 Amazon ★★★★★ 1970年代。ダブリンで生まれ育った「僕」は、修道士としてニューヨークに渡った弟コリガンを追うように渡米する。コリガンは売春婦への慈善活動と介護施設で老人介護をしていた。あるとき…

ブレット・イーストン・エリス『アメリカン・サイコ』(1991)

アメリカン・サイコ〈上〉 (角川文庫) 作者:ブレット・イーストン・エリス 角川書店 Amazon ★★★★ 80年代。ウォール街で働く26歳のパトリック・ベイトマンは、ブランドものに身を包み、仲間たちとレストランで会食したり、女たちとセックスしたりする生活に明…

ベン・ファウンテン『ビリー・リンの永遠の一日』(2012)

ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス) 作者:ファウンテン,ベン 新潮社 Amazon ★★★★ イラク戦争。19歳のビリー含む8人のブラボー分隊の兵士たちは、英雄としてテキサスのスタジアムに駆り出されていた。彼らはフットボールの試合で、芸能人たち…

ジェニファー・イーガン『ならずものがやってくる』(2010)

ならずものがやってくる (ハヤカワepi文庫) 作者:ジェニファー・イーガン,Jennifer Egan 早川書房 Amazon ★★★★ 盗癖を治すべく精神科医にかかっているサーシャは、かつて有名音楽プロデューサーであるベニーのもとで働いていた。ベニーは元パンクロッカーで…

ポール・オースター『冬の日誌』(2012)

冬の日誌 作者:ポール・オースター 新潮社 Amazon ★★★ 自伝。主に肉体の出来事を軸に、時系列を錯綜させながら語っていく。野球に熱中した少年時代、女の子に熱をあげた思春期、生まれてから現在までの住所遍歴、母親の死、自分の結婚など。 自分はそんなふ…

イアン・マキューアン『ソーラー』(2010)

ソーラー (新潮クレスト・ブックス) 作者:イアン マキューアン 新潮社 Amazon ★★★ ノーベル賞を受賞した科学者マイケル・ビアードは、これまで4回離婚し、現在の妻と結婚してからは11回浮気していた。その彼が様々なトラブルに見舞われつつ、同僚が残した新…

マーティン・エイミス『時の矢』(1991)

Time's Arrow or the Nature of the Offence 作者:Amis, Martin Penguin Books Ltd Amazon ★★ アメリカ。「私」ことトード・フレンドリーは医師に囲まれ蘇生処置を受けている。ここから「私」は時間を逆回しにしてトードの人生を語っていく。彼は一見すると…

ヒラリー・マンテル『罪人を召し出せ』(2012)

罪人を召し出せ 作者:ヒラリー マンテル 早川書房 Amazon ★★★★ 1535年秋。イングランド王ヘンリー8世はアン・ブーリンと再婚するも、彼女が妊娠している間に女官のジェーン・シーモアに愛情を抱くようになる。そんななか、秘書官のトマス・クロムウェルはア…

J・M・クッツェー『鉄の時代』(1990)

鉄の時代 (河出文庫) 作者:クッツェー,J.M. 河出書房新社 Amazon ★★★★ アパルトヘイト時代末期のケープタウン。老女の「わたし」はガンが骨まで転移していた。彼女はひょんなことから付近にいたホームレスの男を居候させることになる。さらには、使用人の子…

オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(1932)

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫) 作者:オルダス・ハクスリー 光文社 Amazon ★★★ フォード紀元632年。世界では人間が工場で生産され、赤ん坊の頃から階級が固定していた。支配階級のバーナードは、生まれつきのコンプレックスから周囲とは浮いた行動を…

閻連科『丁庄の夢』(2005)

丁庄の夢 作者:閻連科 河出書房新社 Amazon ★★★ 丁庄の村は売血によってエイズが蔓延していた。もともと売血は政府の主導によるものだったが、村の有力者が私的に商売したのが原因でエイズが流行することになる。村人たちは熱病に苦しみながら新薬の到来を待…