海外文学読書録

書評と感想

フェデリコ・フェリーニ『魂のジュリエッタ』(1965/伊=仏)

★★★

ジュリエッタジュリエッタ・マシーナ)と夫ジョルジョ(マリオ・ピス)は結婚15周年を迎えた。ところが、夫は寝言で見知らぬ女の名前を口に出す。ジュリエッタは夫の浮気を疑うことに。また、ジュリエッタはオカルト教団の集会に顔を出し、夢と現実の境界が曖昧になる。その後、興信所の調査で夫の浮気が確定し……。

相変わらずケレン味の強い作風だが、美術がぶっ飛んでいて見応えがあった。本作はフェリーニ初のカラー作品だという。そのせいか色使いが妙に過剰で、カラーの特色をフルに活用していた。

登場人物の衣装がいかにも衣装なところが目を引く。みんな明らかに普段着ではない。デザインや色使い、布の質感など、これぞ衣装といった服を纏っている。特にジュリエッタが着ている原色の服が鮮烈だ。町中であんな服を着ている女なんてまず見かけないわけで、映画の中だからこそ許されるところがある。

美術のセンスがぶっ飛んでいて面白い。子供たちが演じる宗教劇。こういうキリスト教的な書割が見れるのは西洋ならではだろう。また、ちょっと悪趣味なブルジョワ屋敷。床と壁が黄色に塗りたくられていて異常だった。こんなところに住んでいたら頭がおかしくなりそう。シャーロット・パーキンス・ギルマンの小説に「黄色い壁紙」という短編があるが、あれを映像化するとこんな感じになるのだろう。そして、森の中のツリーハウス。お手製の昇降機に味があった。撮影のためにああいうのをわざわざ作っているところがすごい。昇降機は構えが素人臭く、下手したら事故りそうなスリルがあった。さらに、現代美術の展示場のような退廃的なセットも眼福だ。そこにいる人たちもまるでオブジェのようで退廃的な雰囲気を漂わせている。いかにも悪趣味なブルジョワ屋敷という佇まい。本作は美術や衣装が風変わりでとても目立っている。

『8 1/2』のように私小説的な目配せをしてくるところも特徴だろう。主役のジュリエッタは当然ジュリエッタ・マシーナ本人を連想させるし、夫との関係もフェリーニとの現実の夫婦関係を連想させる。劇中で夫が浮気しているのはフェリーニ一流の自虐ではないか。とにかく、実生活を勘繰らせるような配役と設定をしているのは確かで、それがユーモラスな雰囲気を醸し出している。こういうところは大江健三郎っぽいかもしれない。監督と観客で共犯関係が結ばれている。

ジュリエッタが火刑の子供を救うことで夢が退潮し、カーニバルも去っていく。つまり、自分で自分を救ったということだろう。ジュリエッタにとっての解放は夫を捨てることだと思うが、本作はそこまで踏み込んでいない。ジュリエッタが直面した中年の危機。それは夫の浮気である。しかし、それを乗り越える方法は依然として分からない。それでもこのラストはどこか解放された感じがある。こういった曖昧さも夫婦関係の機微のような気がして、何とも言い難いところがある。

主演のジュリエッタ・マシーナはファニーフェイスのままおばさんになっていて、そのネオテニーっぽさがチャーミングである。最近はこういう顔の大人が増えた。