海外文学読書録

書評と感想

ザック・スナイダー『ウォッチメン』(2009/米)

ウォッチメン (字幕版)

ウォッチメン (字幕版)

  • ローラ・メンネル
Amazon

★★★

1985年10月。ソ連によるアフガン侵攻への機運が高まり、世界は核戦争の危機に直面していた。そんななか、ニューヨークで元ヒーローのコメディアン(ジェフリー・ディーン・モーガン)が何者かに殺される。非合法でヒーロー活動をしているロールシャッハジャッキー・アール・ヘイリー)は、独自に事件を捜査するのだった。彼はかつての仲間だったナイトオウルことダニエル・ドライバーグ(パトリック・ウィルソン)の元を訪ねる。ダニエルは条例によってヒーロー活動が非合法になって以来、引退してカタギの生活を送っていた。

原作はアラン・ムーアデイブ・ギボンズによる同名コミック【Amazon】。

思ったよりも原作に忠実で、しかも原作よりとっつきやすいのは評価できる。終盤のイカの部分は変えて正解だった。さすがに今は80年代じゃないから*1。こちらのほうがしっくりくる。

ヒーローがただのコスプレ野郎にすぎないという皮肉な視点は、たとえば『バットマン』シリーズでお馴染みだけど、本作はそこから一歩踏み込んで、ならず者の自警団活動と位置づけている。コメディアンやロールシャッハなんかは明らかにヴィラン側の人間だ。他のヒーローは比較的まっとうな感覚を持っているものの、しかしそれでも仲間の乱暴狼藉を黙認している。本気になって止めない時点でコメディアンたちと同類と言えよう。「正義」をお題目に掲げれば何をしてもいいのか? という問題意識が本作の根底に流れていて、事件の黒幕であるヴェイトはその集大成的な役割を担っている*2

オジマンディアスことヴェイト(マシュー・グード)の計画は、フィクションでよく見る功利主義の思想だけど*3、原作が80年代のコミックであることを考えると、当時としては斬新だったのだろう。数百万人を犠牲にすることで、核戦争による人類滅亡を回避する。目的のためには手段を選ばない。正義とはどう果たされるべきか? というテーゼは人によって千差万別なので、本作は現代でも色褪せないアクチュアルな作品と言えそう。21世紀の映像技術で映画化されたのは幸福だと思う。

それにしても、本作はヒーローたちの身体能力が高すぎて困惑した。Dr.マンハッタン(ビリー・クラダップ)以外は普通の人間なのに、みんな人間離れしたアクションを見せている。それこそジャッキー・チェンも裸足で逃げるくらい。銃から発射された弾丸を素手で掴むのはさすがにやりすぎだろう。君たちはただのコスプレ野郎なんだよと言いたい。

*1:原作は1986年から1987年にかけて出版された。

*2:もちろん、アメリカが世界中で「正義」を執行していることも射程に入るだろう。たとえば、本作ではベトナム戦争が描かれている。

*3:最近の作品だと、『Fate/Zero』【Amazon】や『進撃の巨人』が有名。