海外文学読書録

書評と感想

ギャヴィン・フッド『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦争』(2015/英=南アフリカ)

★★★★

ロンドン。イギリス軍のパウエル大佐(ヘレン・ミレン)が、アメリカ軍の無人偵察機を使って、ナイロビに潜むテロリスト捕獲作戦を指揮していた。やがてテロリストたちが隠れ家に集合、屋内に自爆ベストが用意されていることを確認する。危険を感じた司令部は捕獲作戦から殺害作戦へ切り替え、無人偵察機によるミサイル攻撃を決定する。ところがその矢先、1人の少女が隠れ家付近でパンを売り出した。このまま攻撃したら彼女を巻き込んでしまう。

テロリストの隠れ家を攻撃するかどうかで上層部がひたすら揉める。こういうひとつの状況で一本の映画を撮ったのはなかなか面白いかも。しかも、気難しいポリティカルスリラーに終始せず、ある程度娯楽性を加味しているところがいい。これからの戦争は、本作みたいに会議室を舞台にしたものになるのだろう。無人偵察機を遠隔操作してターゲットを殺す。こちらは損害のリスクを負わない。やることといったら政治的な意思決定のみ。僕は『ブラックホーク・ダウン』【Amazon】みたいなドンパチ映画が好きなので、この潮流は寂しいと思った。

最初は法的判断と政治的判断で揉めるのだけど、現場付近に少女が登場することで倫理的判断も加わることになる。この倫理的判断については、有名なトロッコ問題に通じるものがあるだろう。ここで隠れ家を攻撃したら1人の少女は確実に死ぬが、一方でこれからテロに巻き込まれるであろう80人の命は救われる。1人の命を救うか、それとも彼女を犠牲にして80人の命を救うか。判断が難しい。

映画では真面目に葛藤していたけれど、これが現実だと果たしてどうだろう? 「テロには屈しない」というのが西側諸国の信条だから、ためらうことなくミサイルをぶち込んだのではないか。たとえば、アメリカが広島と長崎に原爆を落としたときもこういう判断がなされたはずだ。ここで大量殺戮しておけば、本土決戦は回避されて結果的には犠牲者が少なくなる。だから原爆を落とす。スケールは違えど、本作と状況は似ている。

本作を観て意外だったのが、国籍の問題で議論が紛糾するところだった。というのも、攻撃対象にはイギリス国籍とアメリカ国籍が含まれているのだ。たとえ狂信的なテロリストでも、こちら側の国籍を持っていたら無下に殺すことはできない。法的に問題がある。だから当初は捕獲することを考えていた。正直、このロジックは僕には理解不能で、法改正したほうがいいんじゃね? と思ったほどだ。だって、これだとテロリストが英米イスラム系を勧誘しまくったらあちこちでやりたい放題だから。法の不備だと思う。