海外文学読書録

書評と感想

蔵原惟繕『爆薬に火をつけろ』(1959/日)

★★★

中西忠治(小林旭)は若者でありながら小さな土建会社・中西組を経営している。彼は入札で京浜沿いの護岸工事を請け負うが、ライバル会社の妨害や銀行の貸し渋りに難儀していた。忠治は多数の風太郎を雇って工事を進める。そんななか、現場に女流カメラマンの千賀子(白木マリ)がやってくる。

爆薬と書いてダイナマイトと読む。小林旭のヒット曲「ダイナマイトが百五十屯」にあやかったらしい。しかし、本作にダイナマイトは出てこない。そして、小林のニックネームはマイトガイらしいが、世代じゃない僕にはピンとこない。本人は2020年にYouTubeマイトガイチャンネルを開設したので、このニックネームを気に入っているようだが。ともあれ、本作はタイトルに反してダイナマイトが出てこない映画である。

主役の忠治が小林旭の風貌にマッチした清浄な人物で、土建屋の理想を体現している。彼は風太郎を差別せず対等に向き合っているし、ライバル会社に横槍を入れられても入札の正当性を盾に突っぱねている。また、資金繰りのような泥臭い仕事も率先してこなしていた。彼はやくざ染みた業界を浄化したいと願っている。当初は反抗的だった風太郎も、忠治の男気にほだされて工事に邁進するようになった。その様子がとてもまぶしい。経営者と労働者が人情で結ばれるなんて理想的な労使関係だ。現代人からすると、本作は高度経済成長期の夢が描かれているように見える。当時は開発すべき土地がたくさんあり、真面目に仕事をすることで日本の発展に寄与していた。仕事をすればするほど日本は豊かになっていった時代である。もちろん、個々の労働者にそんな意識はない。風太郎たちはあくまで日銭が第一だったし、現場では任侠的な一体感に身を委ねていただけである。しかし、当時はそれが積もり積もって高度経済成長期の夢に膨らんでいたのだ。働けば働くほど豊かになっていった時代。失われた30年を生きた僕はそんな時代に憧憬の念を抱いている。

台風ネタは前年の『風速40米』を彷彿とさせる。同作がヒットしたから主演を変えてネタを使い回したのだろう(『風速40米』は石原裕次郎主演)。監督が同じなので良く言えばセルフオマージュである。台風のシーンはなかなか迫力があって、当時の技術でよくこれだけの映像を撮れたものだと感心した。しかも、プログラムピクチャーだからおそらく低予算である。何も考えずに見たら本当に台風のなか撮影したように見えるからすごい。プログラムピクチャーのわりにはスペクタクルな映像だった。

アクションシーンは2箇所ある。どちらも忠治が喧嘩するシーンだ。最初の喧嘩では相手が刃物を持ち出してきてどういなすか緊張感があったし、次の喧嘩では相手がフルスイングで殴りかかってきて当たるんじゃないかひやひやする。どちらもタイマンとはいえ、思い切った動きをしていて見応えがあった。スタントマンを使わず俳優が演じているところがまたすごい。

千賀子が洒落たオープンカーに乗っている。よく見ると右ハンドルの車だった。シルエットは外車っぽいが、どうやら国産車のようである。当時の日本メーカーがこんな車を製造していたとは意外だった。