海外文学読書録

書評と感想

蔵原惟繕『風速40米』(1958/日)

★★

滝颯夫(石原裕次郎)は北海道大学工学部建築学科の学生で、父(宇野重吉)は羽根田工務店の技師長だった。そんな父は再婚し、颯夫は新しい妹・今日子(北原三枝)と対面する。今日子のことはかつて北アルプスで助けたことがあった。父は颯夫に大手の和泉建設に就職するよう諭すが、颯夫は乗り気ではない。一方、颯夫の後輩・根津四郎(川地民夫)には姉・踏絵(渡辺美佐子)がいて、彼女は和泉建設の社長(金子信雄)と繋がりがあった。羽根田工務店ではビル建設の現場でサボタージュが行われており……。

見所は歌とアクションでそこはちゃんと見せ場になっていた。

まずは歌。今日子のギターを伴奏にして颯夫と四郎がソーラン節を歌う。なぜソーラン節かと言えば颯夫が北海道大学の学生だから。また、颯夫がシャンソンのステージで「山から来た男」を歌う。なぜ「山から来た男」かと言えば颯夫が北海道大学の学生だから。颯夫の部屋にはHOKUDAIと書かれたタペストリーが飾ってある。劇中に北海道は出てこないが、やたらと北海道の文化がフィーチャーされている。そもそも颯夫の実家は田園調布である。北海道には4年しか住んでいない。北海道との縁はさほどないが、しかし大多数の観客にとって北海道は新鮮なイメージがある。数ある映画と差別化するためにこの北海道要素が必要だったのだろう。颯夫の人物像として重要なのは建築学科の学生であることなので。大学は別に北海道じゃなくても良かった。それを敢えて北海道にしているのだからこの北海道推しは必然である。我々は石原裕次郎に北海道の雄大さを重ねて見る。

続いてはアクション。冒頭から山小屋で大立ち回りをしている。4人組の女登山者に大勢の男たちが絡んでいた。それを颯夫が四郎と協力して蹴散らすのである。目的を達成した後は颯爽と立ち去った。颯夫は女たちから「素晴らしき男性」とか「タフガイ」とか評されている。颯夫が理想の男性として表象されていて掴みはOKである。その後、終盤までアクションはない。終盤のアクションは嵐の工事現場であり、ここでは仕事を妨害しに来た男たちと乱闘を繰り広げている。このシーンは物量を投入していてなかなかの迫力だった。敵はツルハシや角材を持ち出しているがそれで人を傷つけることはなく、ほとんどは素手の格闘で収まっている。颯夫はここでもタフガイぶりを発揮するのだった。アクションと呼ぶには牧歌的でほとんど殺陣に近いが、レトロ映画を見る楽しみはこういうところにある。

颯爽の父・敬次郎があまりに駄目すぎて困惑する。というのも、彼は自らのエゴのために30年勤めてきた会社を裏切るのだ。自分は来年定年だがまだ働ける。会社は自分のことを一介の技師長としか見てくれなかった。この会社を裏切れば大会社が重役の椅子を用意してくれる。そのために現場でサボタージュするのだ。仕事人間の哀れな末路である。仕事で自己実現を目指すといざ自分が認められなかったとき、定年を迎えても安心して成仏できない。アラカンなのに未練たらしく仕事に出世にしがみつくことになる。悪質なのはこいつのエゴのせいで死人まで出たことだ。責任は重大だと言わざるを得ない。真相を知った颯爽がそれでも父親に寄り添っているところがもやもやする。

エピローグでは颯夫と今日子がボートで海に繰り出している。これが青春を凝縮した映像になっていて鮮烈だった。石原裕次郎と言えばやはり海のイメージなのだろう。若さに溢れていて羨ましかった。