海外文学読書録

書評と感想

堀貴秀『JUNK HEAD』(2021/日)

★★

遺伝子操作で不老不死となった人類だったが、その代償として生殖能力を失った。人類は新種のウイルスによって絶滅の危機に瀕している。一方、地下世界には大昔に人類が作り出した生命体マリガンがいた。生殖細胞を採取しにパートンが地下世界に行く。

ストップモーションアニメ。ほとんど一人で作ったらしい。映像が本格的でやっていることはすごいが、話が絶望的につまらなかった。続編はたぶん見ないと思う。三部作を予定しているらしいが、この世界観は本作でお腹いっぱいだ。これなら映画よりもテレビシリーズにしたほうが良かった。率直に言って99分(1時間39分)の尺は長い。

ヤン・シュヴァンクマイエルの時代に比べると、現代の映像技術はすごいものだと感心する。日本の映画とは思えないくらいリッチなのだ。確かに最近は『リラックマとカオルさん』や『PUI PUI モルカー』のような上質なストップモーションアニメが制作されていた。しかし、長編映画でここまでリッチなストップモーションアニメは初めて見た。人形やジオラマのディテールも去ることながら、コンピューターで処理した映像が本格的なSF空間を生み出している。人形の造形も洗練されていて今風だ。とりわけマリガンの多様性が面白く、個人的にはエイリアンを模したマリガンと罠を張って捕食する虫みたいなマリガンに惹かれるものがあった。適度にグロいところが本作の持ち味である。序盤のマリガンの排泄シーンには面食らったが、それはそれで生命を感じさせる。また、ペニスと思われたものが実は尻尾だったというオチには梯子を外された気分になった。なるほど、マリガンは生命の木から生まれるからペニスは不要なわけだ。とはいえ、生殖能力を取り戻すのが目的である以上、あれはペニスであって欲しかった。人間にとっての生命とはそういうものではないか。ペニス抜きの生殖は考えられない。

生殖と多様性は切っても切り離せない。マリガンは遺伝子が不安定だから様々な形態のものがいる。理性のあるマリガンもいれば理性のないマリガンもいるし、人間みたいなマリガンもいればエイリアンみたいなマリガンもいる。地下世界はそういったマリガンたちによって独特の生態系ができているが、多様性ゆえに暴力沙汰が絶えない。というのも、エイリアンみたいなマリガンが別のマリガンを捕食しているのだ。人間みたいなマリガンは防御策を講じなければならない。結局のところ、このような多様性を放棄したことが人類の滅亡に繋がっているわけで、生殖によって遺伝子の多様性を確保することが重要なのだろう。遺伝子のエラーによって奇形児が生まれても所与のものとして受け入れる。この生態系には優生思想とは正反対の野性味がある。なぜなら野生の世界では弱肉強食の掟によって生存競争が繰り広げられるから。自然淘汰こそが自然なのであて、人工的に淘汰するといざというときのバッファが足りなくなる。多様性を確保しておけばウイルスに強い個体もいるはずだし、その子孫が生き残る可能性も極めて高い。暴力に満ちた地下世界もあれはあれで合理的なのだと思う。

本作ではパートンの体がガラクタからガラクタへと替えられていく。未来世界において肉体は魂の入れ物に過ぎないのだろう。そこはいかにもSFという感じだった。