海外文学読書録

書評と感想

小林雅仁『リラックマとカオルさん』(2019)

★★★★

アラサー独身OLのカオルさん(多部未華子)は、都内の古いアパートに住んでいた。そこにはリラックマコリラックマキイロイトリが居候している。本作は彼女たちの日常を春夏秋冬に沿って描いていく。

全13話。

Netflixオリジナルのストップモーションアニメで、今のところソフト化の予定はない模様*1。キャラクター人気に寄りかかった空気アニメかと思いきや、蓋を開けたら本格的な日常アニメでびっくりした。映像ではマスコットのもふもふ感を再現して可愛さをアピールしつつ、ドラマでは悩めるカオルさんの人間性にも迫っていて、なかなか深いアニメだと思う。癒やしだけでは終わらない奥行きがあって面白かった。

何と言ってもカオルさんの人物像がいい。基本的にはアラサーの落ち着いた雰囲気の女性だけど、内には干物女らしい闇が潜んでいて、時々それがひょっこり顔を出す。たとえば、第4話では一見してちゃらそうな2人のイケメン男性を妄想しては出会いを期待しているし、第7話では一目惚れした配達員と会うべくネット通販を利用しまくって68万円の請求書を受け取っている。さらに、第10話では会社の後輩から寿退社する意向を聞いてショックを受け、リラックマたちに生々しい愚痴をこぼす始末だ。監督はこの年代の女性を相当リサーチしたのではないか。本作最大の功績は、カオルさんという鉱脈を掘り当てたことだろう。

リラックマたちマスコットの可愛さも抜群で、その一挙手一投足は見ているだけで癒やされてしまう。独特のもふもふした質感はストップモーションアニメならではだ。面白いのはリラックマが時々服を来ているところで、夏祭りには浴衣を着て参加しているし、冬にはニット帽とマフラーを身につけて出かけている。個人的にツボだったのがハワイを題材にした第10話だ。動画サイトで有名になったリラックマが、ワイングラスを片手にサングラスと金のネックレスをつけてふんぞり返っていて、その分かりやすさが最高だった。あと、第8話で金策のためにマスコットたちがアルバイトをするのだけど、その際、リラックマがヘルメットを被って工事現場で働いている様子も可愛い。全体的に造形がすごく凝っている。

本作に一貫して流れているのが、「ずっと同じではいられない」というメッセージだ。いつまでも楽しい時間は続かない。時が来たら次のステージへ移らなければならない。こういうのは日常アニメの王道ではあるけれども、しかし、リラックマというコンテンツを扱ったアニメでやるのは挑戦的だろう。だって商品としてのリラックマは永遠だから。それこそミッキーマウスみたいに何十年と続くことを期待されている。そこに諸行無常を持ち込んでくるのはなかなかできることではない。

なお、本作については1話ずつの感想をTwitterに書いた。ツイートを全部貼りたいところだが、そうすると長くなるので今回は割愛した。代わりにリラックマのぬいぐるみを貼っておく。

 

 

*1:追記。2020年6月にBlu-rayが発売された。