海外文学読書録

書評と感想

ポン・ジュノ『母なる証明』(2009/韓国)

母なる証明(字幕版)

★★★★

母親(キム・ヘジャ)と息子・トジュン(ウォンビン)は2人暮らし。トジュンには悪友・ジンテ(チン・グ)がおり、何かといいように利用されている。ある日、トジュンが少女(チョン・ミソン)を殺害した容疑で逮捕されてしまう。冤罪と確信した母親は、真犯人を探すべく奔走する。

途中までは類型的な物語に見えたけれど、終盤で一捻りあって良かった。2時間もボリュームがあるわりには、人物もエピソードも必要最小限にまとめている。『殺人の追憶』と比べると、だいぶ洗練されているのではないか。ポン・ジュノはこういうスマートな映画も撮れるのだなと感心した。

母親の息子に対する愛情が重く、そこには色々な理由が透けて見える。たとえば、儒教社会であるとか、母子家庭であるとか、馬鹿な息子ほど可愛いものであるとか。これらが混じり合ってこその偏愛であり、彼女の盲目的な言動が特別ではないと感じられる。しかしその一方、母親の造形が類型的に見えるところも確かだ。息子の無罪を信じて必死に駆け回る、その姿に意外性が見出だせない。極端な話、殺人さえも想定の範囲内に収まってしまうのだ。だから母親から息子へのアプローチという点ではどこか乗り切れない部分があった。

ところが、そんな懸念を覆したのが終盤だ。ここでは息子から母親へのアプローチが行われている。具体的には、家屋の焼け跡で見つけた鍼を渡している。息子は見た感じ軽度の知的障害で、一種のイノセンスとして造形されていた。イノセンスゆえに自分を弁護できない。イノセンスゆえに肝心のことを思い出せない。しかし、件のシーンではまるで母親の犯罪を認知しているかのような錯覚をおぼえさせるのだった。もちろん、これはあくまで錯覚なのだけど、一方で母親と息子の共犯関係が示唆されることになり、一周回った不気味さを醸し出している。母親にとって息子が必要なのは当然。じゃあ、息子はどうなのかといったら、彼にとっても母親は必要不可欠だった。つまり、母親と息子は共依存している。両者が自立しないまま日々を過ごしていくのはグロテスクでぞっとする。

それにしても、相変わらず韓国映画に出てくる警察は無能で、無能ゆえに物語が成立しているところが面白い。母親と刑事が顔見知りじゃなかったら、息子はもっと酷い目に遭っていたのではないか。また、教授や弁護士がやたらと偉そうなところも特徴的だ。これぞ学歴社会の成れの果てであり、お国柄が垣間見える。