海外文学読書録

書評と感想

ジョン・アップダイク『金持になったウサギ』(1981)

金持になったウサギ〈1〉 (新潮・現代世界の文学)

金持になったウサギ〈1〉 (新潮・現代世界の文学)

 

★★★

1979年。アメリカは第2次オイルショックでガソリン不足に見舞われていた。ウサギことハリー・アングストロームは、印刷工から一転、トヨタの代理店で経営者をしている。金持ちになったウサギは、プールにゴルフと余裕のある生活をしていた。そんなある日、大学生の息子ネルソンが、ガールフレンドのメラニーを連れて家に帰ってくる。

「本当に馬鹿なことを言うわね、ネルソン」メラニーは陶酔状態で、なごやかに言う。「あなたにはお父さんが必要なのよ。わたしたちはみんな父親が必要なんだわ。とにかく、あなたのお父さんはいつでも見られるところにいるんだから。お父さんは悪い人じゃないわ」(I p.187)

ピュリッツァー賞、全米図書賞、全米批評家協会賞受賞作。

『帰ってきたウサギ』の続編。

政治に焦点を当てた前作とは打って変わって、本作は父親と息子の相克を題材にしていた。ここに描かれているのは、「今どきの若者は」式のよくあるジェネレーションギャップなのだと思う。ウサギの世代だと、子供にこうしろと言って従わなければ殴るだけだった。しかし、ネルソンの世代ではもっと民主的になっており、父親に自分の意見を堂々と述べるようになっている。ウサギからしたら、未熟者が何を言ってるのかという感じだろう。特に仕事面での対立は深刻で、経験豊かなウサギに対し、右も左も分からないネルソンが己の裁量で好き勝手している。当然2人は口論することに。このような経緯もあって、ウサギはネルソンを自分の会社で働かせたくないと思っている。僕は年齢的にウサギの気持ちもネルソンの気持ちも分かるので、彼らの対立は他人事ではないと思った。

プライベートでも2人はいがみ合っていて、ウサギはネルソンが大学をドロップアウトしてデキ婚するのが許せないし、一方のネルソンは10年前にウサギがジルを死なせたことが許せないでいる。父親と息子がお互い相手のことを愚か者だと思って憤慨するのはよくあることだろう。僕も反抗期のときはそうだった。父親のことを愚鈍な存在だと見下していた。それが間違いだったと分かるのは、自分が社会に出て働くようになってからである。おそらく、僕の父親も若い頃は祖父に対してそう思っていただろうし、祖父も若い頃は曽祖父に対してそう思っていたのだろう。父親と息子の相克は、時代を超えて継承されていくのだ。一方は、波乱を乗り越えて小康状態にある父親世代。もう一方は、結婚してこれから波乱を迎える息子世代。世代間の対立を描いた本作は、20世紀に留まらない普遍的な小説だと思う。

日本の読者として興味深かったのが、アメリカ国内を日本車が席巻していることだった。どうやら日本車は燃費がよく、オイルショックの当時にあっては高性能な車だと目されていたようだ。周知の通り、本作の舞台である1979年は、アメリカで『ジャパン・アズ・ナンバーワン』【Amazon】が出版された年である。僕は未読なので詳細はよく分からないけれど、どうやら日本式経営を褒め称えた本のようだ。ウサギも作中で日本式経営を絶賛していたので、これは当時のビジネスマンの共通認識だったのだろう。日本の製造業が光り輝いていた時代。日本人にとっては、かつての栄光を回顧する意味でも読む意義がある。