海外文学読書録

書評と感想

深作欣二『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973/日)

★★★

広島市。復員兵の山中正治北大路欣也)は、刑務所で広能昌三(菅原文太)と知り合った後出所する。山中は紆余曲折の末に村岡組に入り、組長の姪で未亡人の上原靖子(梶芽衣子)と交際することに。その後、村岡組は大友組の大友勝利(千葉真一)に縄張りの広島競輪場を荒らされ……。

『仁義なき戦い』の続編。

山中正治の一代記みたいな映画だった。復員兵の男がやくざの世界に足を踏み入れ、最後は警察に追い詰められて破滅する。ナレーションによると、これが広島やくざの典型なのだという。カタギの僕にはよく分からない世界だが、彼らが賭場でサイコロ博打をしているところはいつも通りだったので、やくざとは本来博徒の集まりであることが窺える。今もああいうレトロな博打を行っているのだろうか? 最近では2010年に大相撲野球賭博問題が発覚して世間を賑わせた。この事件から察するに、博打の種類も時代によって移り変わっていると推測できる。たとえば、本作ではやくざが競輪に関わっているが、これは競輪も立派な博打だからだろう。日本では今後、統合型リゾートと称してカジノを誘致することが決定している。ここにもやくざが絡んでくるのは明白で、善良な市民としては憂鬱になるばかりである。

千葉真一演じる大友勝利は、ハイテンションな愚連隊みたいな感じで、僕の抱いているやくざのイメージとはかけ離れていた。大物なのか無鉄砲なのか分からないところが面白い。やくざというよりは、外国のギャングみたいなキャラをしている。本作でもっとも印象に残っているのが、そんな勝利が敵を吊るして下っ端やくざたちと射撃の的にするシーン。本作のベストシーンである(次点は、山中が屋内で3人の死を確認しているところを天井から映しているシーン)。ともあれ、勝利のキャラはドキュメンタリー調の本作にあって異彩を放っていた。

何かあるとやくざがすぐに発砲するところは、『天才バカボン』【Amazon】の本官さんを連想してニヤけてしまった。彼らは本気なのだろうが、傍から見ているとギャグにしか思えない。発砲といえば、やくざもハジキを持った人間には滅法弱い。襲うほうが常に有利で、襲われるほうはただただ狼狽するのみである。中には命乞いするやくざもいた。この辺に人間味を感じてほっこりする。

組長を頂点としたやくざの疑似家族制度は、天皇を頂点とした近代日本の疑似家族制度と類似性がある。すなわち、前者は組長が父親で舎弟が子供、後者は天皇が父親で国民が子供という制度である。どちらも親孝行という道徳原理が支配的な価値観になっていて、子供は親に絶対服従することを求められている。やくざに右翼が多いことを考えると、両者には何か繋がりがあるのかもしれない。