海外文学読書録

書評と感想

ウェン・スペンサー『ようこそ女たちの王国へ』(2005)

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫SF)

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫SF)

 

★★

男性の出生率が極端に低下し、女性上位になっている世界。ここでは女王が国を統治し、男性は種馬として売買される存在だった。ウィスラー家の長男ジェリンは16歳になり、婿入りの話が持ち上がっている。そんななか、彼は盗賊に襲われた娘を救出、娘は王女の一人だった。それをきっかけにジェリンは、長姉レン王女に見初められる。王家に婿入りしたジェリンは陰謀に巻き込まれ……。

女性上位の社会にあって、男にも多少のメリットがなくもない。と、ジェリン・ウィスラーは思った。そのひとつが、姉貴を絞め殺してもいいことだ。周囲はきっとこういうにきまってる――「あの子は二十八人もいる娘のひとりよ。それも、まんなかあたりの。トラブルメーカーだったし。それにひきかえ、ジェリンは……男子だわ」これで一見落着のはずだ。(p.7)

ストーリーはつまらなかったけれど、設定がなかなか面白くて、ジェンダーを逆転させることで何か生成されるのか、その点に注目して読んだ。

レヴィ=ストロースによると、古くから親族の基本構造として女性が交換財とされていたようだ。つまり、ある共同体と別の共同体が親族になる際、女性を交換することでそれを達成するという。歴史上によくある政略結婚なんてもろにそれだし、我々庶民もほとんどが嫁入りの文化で成り立っている。婿入りの例は少ない。女性は共同体にとって交換のための財産であり、異なる共同体間の絆を深めるため、相手方の家庭で子供を産むことが期待されている。女性は繁殖能力が第一。「産む機械」であることを強制されているのだ。現代ではその状況がだいぶ緩和されたけれど、婚姻関係においては、まだまだ嫁入りの文化が強いと思う。

本作ではその立場が逆転している。女性が極端に余っているこの世界では、男性が共同体における交換財になっているだ。社会を動かす力・権力は女性にある。男性は財産であるため、しばしば女性に拉致されて結婚を強制される。夫を金で買うのが当然の文化になっている。ただ、ジェンダーは逆転しても、依然として出産は女性が行うことになっており、男性は複数の女性に対する種馬の役割を担っている。ここが本作の重要なポイントで、男性が希少な存在になっている結果、イスラム社会のような一夫多妻制になっているのだ。つまり、女性上位の社会なのに、一周回って男性上位の社会と制度がイコールになっている。これが僕にはえらい皮肉に見えて、男性上位でも女性上位でも行き着く先は同じなんだなと思った。

それもこれも出産できるのが女性だけなのが原因である。だから、根本的にジェンダーを変えるには、男性も出産できるようにするしかないのだろう。あるいは、試験管で子供を作れるようにするとか。ともあれ、生物学上の問題がジェンダーの壁になっているところが興味深かった。