海外文学読書録

書評と感想

村川透『最も危険な遊戯』(1978/日)

★★★

東日電気社長の南条信隆(入江正徳)が誘拐された。殺し屋の鳴海(松田優作)が、東日グループの小日向会長(内田朝雄)から5000万円で救出を請け負う。ところが、鳴海はその任務に失敗して負傷するのだった。彼は任務で知り合った女・杏子(田坂圭子)に介抱される。その後、小日向のところに金を返しにいった鳴海は、相手から政財界のフィクサー・足立精四郎(見明凡太郎)の暗殺を依頼される。

内容は大藪春彦の小説みたいに安っぽいものの、主演の松田優作が魅力的でそれなりに見れる映画になっていた。実のところ、彼のことは『探偵物語』【Amazon】と『ブラック・レイン』【Amazon】でしか見たことがない。現代人としては、昭和のスターを愛でるような感じで鑑賞した。

この頃の東映やくざ映画や暴力映画など、男性をターゲットにした作品を量産していたようで、本作もその一環だと思われる。主人公が女性を暴行するシーンがあるし、およそデートムービーとは程遠い。当時のエンタメ界のトレンドは、セックスとバイオレンスだったのだろう。全体的に救い難い男根主義が横溢していて、こんなんでよく興行が成り立っていたものだと感心した。

女の扱いについては、現代だったらフェミニストが黙ってないような気がする。主人公は平気で女を張り倒しているし、あまつさえレイプにまで及んでいる。しかも、そのレイプされた女は、主人公に惚れて押しかけ女房みたいになるのだった。最近の研究だと、暴力的な男性は女性からモテるそうだけど、しかしそうは言っても、自分をレイプした相手に好意を寄せるなんてあり得ないだろう。普通だったら憎むのではなかろうか。この辺のジェンダー観がまさに救い難い男根主義で、フェミニストではない僕でも辟易してしまう。

主人公を逮捕した刑事が、「俺たちの暴力は法律で守られてるんだよ」と言いながら集団でリンチするところは最高にイカしている。さらに、ビルの屋上からターゲットを狙撃した主人公に対し、制服を着た警官たちが白昼堂々、銃を連射してる光景はなかなかシュールだった。ここは本当に日本かよ、と思う。世界観がまるで三文小説だった。

終盤では走行中の車を主人公が走って追いかけるのだけど、けっこうな距離を走ってるのに全然離されてなくて、奴の脚力はチーター並か、とツッコんだ。細かい整合性に頓着しないその作りは、まさに男の映画という感じがする。