海外文学読書録

書評と感想

上北学『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』(2021)

★★★

26歳の吉田(興津和幸)は都内のIT企業に勤めるサラリーマン。彼は上司の後藤愛依梨(金元寿子)に告白するも振られてしまうのだった。吉田は自宅アパートへの帰り道、道でうずくまっていた女子高生を拾って連れて帰る。彼女の名前は荻原沙優(市ノ瀬加那)。援交しながらその日の宿を転々とする家出少女だった。吉田と沙優、2人の共同生活が始まる。

原作はしめさばの同名小説【Amazon】。

全12話。

リアルタイムで観ていたときはあまりに苦痛で5話で切ったのだけど、1年経って続きを観たらまあまあ面白かった。

全体的におたくの願望充足っぽいアニメで、ゼロ年代のエロゲみたいなシチュエーションになっている。けれども、終盤になってちゃんと家出少女を家に帰したのは良かった。あのままだらだらと共同生活をして甘酸っぱい恋愛遊戯にふけるんじゃないか心配していたのである。しかし、蓋を開けたら吉田と沙優の同棲期間はわずか半年。吉田は大人としての本分を守り、沙優の無軌道な家出生活を終わらせることになる。

吉田は沙優に肉体関係を提案されるも、頑なにそれを拒否する。あくまで大人として子供を保護する立場を貫いていた。このような禁欲はおたくの精神と親和性が高い。というのも、おたくとは基本的にメサコンであり、困っている女性を助けたいのである。人の弱みにつけ込んでセックスするのは騎士道精神に反する。それに実生活においておたくは不本意な禁欲を強いられている。彼らは性的魅力に乏しく、女性とのセックスにありつくことはない。だからこそおたくは吉田に自己投影できるのだ。自分と同じ禁欲を吉田が保護という名目で行っている。しかも、吉田は複数の女性から好意を抱かれているモテ男だ。本当はセックスできるのに敢えてしない。そういった吉田の痩せ我慢がおたくのリアルとねじれた形で接続し、現実逃避の回路を開いている。成人男性と女子高生の清らかな共同生活。吉田はおたくが抱える欲望の代行者であり、おたくの理想像として感情移入の対象になっている。

家出少女を匿う吉田は犯罪者であり、吉田や同僚も犯罪であると認識している。吉田がやってることは道徳的には正しい。しかし、法律的には正しくない。このコンフリクトをどう解消するのかと思ったら、特に何もなくて拍子抜けしたのだった。道徳と法律は別問題なのだから、吉田は罰せられるべきだったのではないか。ところが、結局はお咎めなしである。同僚たちは吉田に協力的だったし、沙優の母親も吉田の不法行為を不問に付していた。期せずして法律に対する道徳の優位性を見せつけている。ここら辺もおたくの願望充足のようで腑に落ちなかった。

とはいえ、吉田は沙優の家出生活を終わらせた。それまで沙優は自分の肉体を差し出すことで宿を転々としていたけれど、吉田と出会うことでまた元の道に戻ることができた。吉田と沙優の奇跡的な出会い。フィクションとはすなわち出会いの奇跡であり、その奇跡の美しさを描いたところは評価すべきだろう。