海外文学読書録

書評と感想

庵野秀明『ラブ&ポップ』(1998/日)

★★★

16歳の女子高生・裕美(三輪明日美)は女友達3人と渋谷で遊んでいた。そんな彼女がデパートの宝石売り場でトパーズの指輪を見つける。無性に欲しくなったが、価格が12万円もして手が出なかった。裕美は援助交際をして購入資金を稼ぐことにする。

原作は村上龍の同名小説【Amazon】。

BGMにエリック・サティを使っているせいか、岩井俊二の映画を連想した。たぶん、90年代の日本の芸術映画ってどれもこんな感じなのだろう。肌感覚を重視したリアリズムの追求。庵野秀明って『シン・ゴジラ』のようなエンタメ作品よりも、本作のような芸術作品のほうがユニークで面白いと思う。

女子高生の援助交際を題材にしている。しかし、女子高生本人よりも、援助交際を通して遭遇するおっさんたちのほうが濃くて困惑した。とにかく滅茶苦茶気持ち悪いのである。庵野秀明は『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』【Amazon】において、観客をスクリーンに登場させるという荒業を使った。お前らおたくは気持ち悪いんだよ、と言いたげな映像である。本作もそれと似たような感じで、気持ち悪いおっさんたちが観客とリンクしている。公開当時、スケベ心で本作を観に来た男性客はバツの悪い思いをしたに違いない。あの気持ち悪いおっさんどもは俺なのだ、と。ちょうど自分の欲望を見透かされたような体である。

一緒にしゃぶしゃぶを食べるだけで5万円払うって、この時代のオヤジは気が狂っている。結局はカラオケに行くことになったけれど、その際、女子高生に葡萄を咀嚼させてそれを12万円で買い取っているのだからのけぞる。下手にセックスするよりよっぽどグロテスクではないか。他にも、女子高生をレンタルビデオ店のAVコーナーに連れ込み、そこでオナニーをして彼女の手に精液をかける男もいて、この世界は地獄かよと思った。しかも、そいつは終始つばを吐くような挙動をしているうえ、風呂にも入らない、極度のコミュ障という役満みたいなキモ男なのである。これなんかは当時のおたくを風刺しているようでなかなか意地が悪い。この頃の庵野秀明は間違いなく尖っていた。

よくフェミニストは売春を男性による性的搾取として非難するけれど、本作を観るとそれも一理あると思う。一見すると、売春とは金銭と肉体をトレードするフェアな関係のように見える。ところが、実際は肉体のほかに女性の尊厳まで奪っていて、精神面で多大な負荷をかけていた。結局のところ、売春とは究極の肉体労働であると同時に、究極の感情労働でもあるわけだ。一般論として、人間の尊厳は金銭には置き換えられないほどの価値がある。本作は援助交際を通して男性の欲望のあり方を透視している。

キャプテンEOのぬいぐるみにモザイクがかかっているうえ、その固有名詞を発するたびにピー音が被さっているのには笑ってしまった。やはりディズニー作品をそのまま出すのはご法度らしい。この頃の庵野秀明には屈折したユーモアがあった。また、主人公の友達役で出演した仲間由紀恵は一人だけものが違っていて主人公よりも可愛かった。後にブレイクするのも当然といった感じの輝きがある。