海外文学読書録

書評と感想

ウィリアム・ワイラー『ローマの休日』(1953/米)

★★★★

ヨーロッパ各国を親善旅行中の王女アン(オードリー・ヘプバーン)は、イタリアのローマを訪れる。そこで彼女は過密スケジュールに耐えかねてヒステリーを起こす。その夜、城を抜け出したアンは、アメリカ人の新聞記者ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)に介抱される。間もなくジョーは彼女の素性に気づき、カメラマンのアーヴィング(エディ・アルバート)を引き入れてスクープをものにしようとする。

今回で3回目くらいの鑑賞だけど、記憶していたのよりもシンプルな話だった。アニメで言えば、『ルパン三世 カリオストロの城』【Amazon】みたいな感じだ。方や王女、方や新聞記者。決して出会わないはずの2人が恋に落ち、最後は決然と別れている。

いくら愛し合っていてもそれが成就しないのって、Twitterで出会ったおたく青年と家出少女みたいでなかなかエモい。つまり、本作には身分の壁があり、家出少女には法律の壁がある。2人の愛はその壁を乗り越えることができない。束の間の恋路を存分に楽しみ、葛藤しつつもそれぞれの日常へと帰っていく。休日はいつまでも続かないのだ。こういった日常と非日常の関係をより先鋭的に描いたのが『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』【Amazon】で、夢の時間が儚いのはおたくも一般人も変わらないようである。本当だったらいつまでも休日を満喫していたい。でも、いつかそこから抜け出さないといけない。日常の持つ引力の強さが憎たらしいと思う。

本作には漫画・アニメ的な表現がちらほらあったけれど、これは話が逆で、漫画やアニメが本作から影響を受けたのだろう。たとえば、アンがベスパを暴走させてあちこちに混乱を巻き起こすシーン。これなんかもろに宮崎駿で、アニメ化したときの細密な動きが目に浮かぶようである。本作も宮崎アニメも、ヨーロッパ的なガジェットが様になっている。

真実の口には有名な言い伝えがあり、それは嘘をついている者が手を入れると抜けなくなるのだという。よくよく考えたらこの時点でアンもジョーも互いに嘘をついていたわけで、偶然にしては随分と出来すぎたシチュエーションだ。場所と物語の奇跡的なマッチングと言うべきか。そこを逃さなかった制作陣はさすがだった。

籠の中の鳥だったアンが、リフレッシュして帰ってきて一皮剥けたところがいい。ジョーが出席する記者会見では、最後に笑顔を見せた後、やや後ろ髪を引かれるような表情をしつつその場を去っていく。彼女の手元に残ったのは写真、そしてかけがえのない思い出である。さらに、ジョーも一人だけ会場に残った後、意を決して格好良く歩き去っていく。これがまた最高の終わり方だった。休日はたまにあるからこそ尊いのであり、普段の我々は日常を頑張って生きていくしかないのである。それぞれの場所で。