海外文学読書録

書評と感想

篠原啓輔『その着せ替え人形は恋をする』(2022)

★★★

高校1年生の五条新菜(石毛翔弥)は雛人形店の家庭に生まれ、彼自身も雛人形職人を目指して修行の日々を送っていた。五条はクラスでひとりぼっちだったが、ある日、同級生でギャルの喜多川海夢(直田姫奈)と接点ができる。五条が衣装作りできると知った喜多川は、彼にコスプレの衣装作りを頼むのだった。

原作は福田晋一の同名漫画【Amazon】。

全12話。

コスプレ趣味を通して女体の強さをこれでもかと描いている。

ヒロインの喜多川は読者モデルの仕事をするほどのルックスをしている。おまけに日常ではギャルの格好をした陽キャだ。そんな彼女が陰キャの五条と親交を結び、遂には恋に落ちるようになる。これはつまり、「オタクに優しいギャル」の定型である。最近では『イジらないで、長瀞さん』【Amazon】がこのジャンルからアニメ化されていた。現実世界ではギャルがおたくを好きになることはまずない。むしろ、おたくを見下し虐げる立場だろう。ギャルとおたくは水と油のような関係だ。しかし、だからこそフィクションの題材にぴったりなのである。カースト上位のギャルがカースト下位のおたくにべた惚れする。現実と虚構はギャップがあればあるほど面白みが増すわけで、「オタクに優しいギャル」はそれだけでおいしいジャンルと言えよう。今後伸びていくジャンルに違いない。

本作で一貫して描かれているのは女体の強さである。裸になっても強いし、服を着ていても強い。だからエンパワーメントとしてのコスプレと相性がいいのだ。喜多川がコスプレをすることで女体の強さが引き立てられている。「かわいいは正義」とは言い得て妙で、ファッションとは女体を強化し、輝かせるものなのだ。また、喜多川は五条に対してしばしば性的なちょっかいをかける。五条のリアクションはいつもオーバーで、女体に対する免疫のなさを物語っている。その童貞ムーブがまた女体の強さを引き立てているのだから面白い。女体は裸であっても絶大な強さを持っている。無垢な男性をドギマギさせる力がある。ファッションによる美的な強さと裸による性的な強さ。本作はその両面から女体に光を当てている。

五条は喜多川の自己実現(コスプレ趣味)に力を貸す。しかし、喜多川は五条の自己実現雛人形制作)に力を貸さない。そういう不均衡がある一方、五条は喜多川によって自閉的な状況から抜け出せた。陰キャだった五条の人生に光が灯ったのだ。カースト上位のギャルがカースト下位のおたくを孤独の穴蔵から引っ張り出す。こういった物語構造は「白人の救世主」に類似している。現実においてギャルとおたくは決して交わらないわけで、フィクションを通して逆説的にその身分格差を思い知らされたのだった。