海外文学読書録

書評と感想

今井哲也『ぼくらのよあけ』(2011)

★★★★

2038年。小学4年生の沢渡悠真はオートボットのナナコの世話になっていたが、彼女のことを邪険にしていた。悠真は阿佐ヶ谷住宅に住んでおり、宇宙が好きで豊富な知識を持っている。ある日、悠真がナナコに導かれて団地の屋上に行くと、宇宙から来た人工知能がナナコを介して語りかけてきた。その人工知能は28年前に地球に来たものの、故障して帰れなくなったという。悠真は友達と協力して人工知能を宇宙へ帰そうとする。

全2巻。

電脳コイル』【Amazon】にインスパイアされたような古くて新しい世界観が良かった。団地と小学生。昭和レトロと近未来テクノロジー。SFでありながらもノスタルジックな感興をもよおす作品になっている。

小学生の生態がけっこう生々しいというか、あの世代の幼さを忠実に再現していて感心した。目先の欲望に釣られるところとか、男子が女子を遠ざけるところとか、道理に合わないことを言って揉めるところとか。あるいは切りつけるようなコミュニケーションも子供ならではだ。特に女子小学生の陰湿さは注目すべきで、空気に支配された同質的なコミュニティは誰もが経験したと思う。いじめというのはみんながいじめていいと了解しているから発生する。オンラインでの立ち居振る舞いが自分の立場にダイレクトに反映するあたり、昨今のSNS事情を彷彿とさせて身が引き締まる。まったく、僕が小学生の頃にLINEもTwitterもなくて良かった。あったら相当な気苦労をしてそうだ。

人間と人工知能、男子と女子、大人と子供。彼我の壁を取り払って相互理解を促進させるところが本作の肝だろう。狭い人間関係の中にも他者は存在し、彼らを取り込んでいくことで世界を広げていく。紆余曲折がありながらも最終的に悠真とナナコの関係に回帰するところは見事で、ありがちなラストでもまあまあ納得することができた。というかそもそもこのラスト、『寄生獣』【Amazon】を連想したのだが気のせいだろうか? 読んでいてアフタヌーンっぽいと思っていたら案の定アフタヌーンだったのでやっぱりアフタヌーンっぽいのだと思う。

悠真の世代と親世代の二重構造になっているところも良かった。誰だって子供時代はあるし、誰だっていつかは大人になる(死なない限りは)。そういう健全なサイクルを無理なくストーリーに組み込んでいるところもポイントが高かった。個人的に「大人になる」という話に弱いのかもしれない。

人工知能が嘘をつく、というギミックは『2001年宇宙の旅』【Amazon】が元ネタだろうか(SFはあまり詳しくないので確信が持てない)。ただのプログラムが特異点を突破する。嘘をつくということは欲望があるということであり、欲望の存在は人間性の証である。高度に発達した人工知能は人間とほぼ変わらない。