海外文学読書録

書評と感想

ロバート・ワイズ『地球の静止する日』(1951/米)

★★★

地球の大気圏に銀色の巨大な円盤が飛来、まもなくワシントンD.C.に着陸する。中から奇妙な服を来た人間らしき男(マイケル・レニー)が現れた。彼は宇宙人で、名前はクラトゥだという。見物人に近づいていったクラトゥは、慌てた警備兵に銃で撃たれる。その後、円盤からロボットのゴート(ロック・マーティン)が現れた。クラトゥは地球が滅亡の危機にあることを世界中の指導者に伝えたがっていたが、アメリカの役人はそれはできないと語る。

原作はハリー・ベイツの短編小説【Amazon】。

ファースト・コンタクトものとしては、宇宙人を侵略者ではなく友好的な存在として登場させたところが画期的らしい。また、米ソ冷戦へのアンチテーゼを前面に出していて、そのレトロな映像と相俟って時代を感じる。正直、現代人の僕にとってはあまり観る意義を感じなかったけれど、映画の歴史を確認できたのは良かった。どんなジャンルでも古典はチェックしておくべきだろう。

戦争の原動力が人々の「恐怖」にあることを具体的なエピソードで示しているところが面白い。クラトゥは当初アメリカ人から歓迎されるのだけど、宿泊先から逃げたことで指名手配される。そして、すぐさまラジオで怪物扱いされる。未知への恐怖が一気に顕在化したのだ。相手は無敵のロボットを持っているから、その恐怖はなおさら強い。下手したら皆殺しにされるかもしれない。だから自衛のためにクラトゥを捕獲する。僕も愚かな大衆の一人なので、こういう気持ちはよく分かるのだけど、映画として一歩引いた視点で見ると、これは良くない傾向だと思う。恐怖を暴力に直結させるのって、人間が持つ最大の悪癖だろう。我々は脊髄反射的な反応をする前に、理性で物事を判断する必要がある。

市民社会に紛れ込んだクラトゥは、ヘレン(パトリシア・ニール)という民間人と親しくなる。終盤になってヘレンの婚約者が、功名心に取り憑かれて世界を危機に晒すところはぎょっとした。クラトゥを捕まえて英雄になりたい。テレビに出て有名になりたい。世界よりも自分、他人よりも自分といった根性を剥き出しにしている。こういう浅はかな人間はどの社会にもいるので、とても他人事には思えなかった。

原子力が宇宙人の懸案になっているところは時代を感じる。同時代の漫画『鉄腕アトム』【Amazon】が、原子力を未来のエネルギーとして活用したのとは対照的である。フィクションにおける原子力の扱いを時代順に追っていくのも面白そうだと思った。