海外文学読書録

書評と感想

スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』(2018)

★★

記憶を失った「わたし」が、郊外のブラックヒース館にたどり着く。そこでは客を集めて夜に仮面舞踏会を開こうとしていた。ループの檻に閉じ込められた「わたし」は、8日と8人の宿主を渡り歩いてイヴリン嬢殺害の謎を解くことに。そうすることでここから抜け出せるという。さらに、屋敷では19年前にも殺人事件が起きていて……。

明日はわたしが望むどんな一日にもでき、それはこの数十年で初めて明日を楽しみにできるということだ。明日を不安でしかないものではなく、自分自身にする約束にできる。もっと勇敢になったり親切になったり、まちがっていたことを正す機会にできる。今日のわたしよりもいいものになる機会だ。(p.414)

古き良きカントリーハウスものにループ設定を持ち込んだSFミステリ。タイムテーブルを作るのが大変そうな労作であることには間違いない。ただ、あまりに長くて読んでいてだれたし、内容も複雑なだけで思ったほど面白くなかった。これが3/4程度の分量だったら納得したかもしれない。

謎解きミステリというのは元々ゲーム性の高いジャンルだけど、本作はそこにループ設定を取り入れることで、その特性をさらに高めている。こういうのってたぶんテレビゲームでプレイするのだったら面白いのだろう。『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』【Amazon】とか、『STEINS;GATE』【Amazon】とか。どちらもループもので、ゲーム版は名作として名高い。しかし、こういうのを小説やアニメにしてしまうと途端につまらなくなるのだ。原因はインタラクティブ性が失われるからで、この手のジャンルは話そのものには魅力がないのである。あくまで仕掛けが面白いだけ。本作もその弊は免れてなくて、途中からは退屈な手続きを読まされてるような気分になった。せめてもう少し短れば飽きなかったと思う。手間のかかった小説なだけに残念である。

本作は複数の謎が提示されるけれど、どれも捻りが効いていて驚きがあった。19年前の殺人の真相、「わたし」をこの屋敷に閉じ込めた意図、イヴリン嬢殺害のからくり。ごちゃごちゃしているせいであまり鮮烈な印象は残さないものの、ミステリとしてはどれもレベルが高いことに間違いない。一粒で三つおいしいって感じである。ただ、日本の作家だったらもっとシンプルにまとめてサプライズを引き立てただろう。その点、本作は複雑なプロットに足元をすくわれたと思う。

「わたし」がアナに対して過度に思い入れがあるところもきつかった。真実を知ってもそういう選択をするのか、みたいな感じで呆れたのである。正義感が空回りしているというか。まあ、この辺は好みの問題なのだろう。個人的にはあまり感情を入れず、淡々とゲームをやってくれればいいのにと思った。